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レポート

2018/11/27

第32回日本癌学会市民公開講座より(第3回)

がんの親玉「がん幹細胞」が再発や転移を生む

がんの再発を抑制する可能性のある古くて新しい薬とは?

中西美荷=医学ライター

治療抵抗性の背景に4つの特性

 佐谷氏によれば、がん幹細胞は以下の4つの特徴を持つために治療に抵抗性であることが、最近、明らかになってきた。1)普通のがん細胞に比べて増殖速度が遅い、2)薬剤を排出する能力が高い、3)免疫抑制物質を発現・分泌する、4)活性酸素を抑制する能力が高い。

 増殖速度が遅いと治療抵抗性となるのは、現在開発されているほとんどの抗がん治療が増殖の速い細胞に対する治療であり、ゆっくり増殖する細胞に対しては効きにくいためだという。

 4つ目の「活性酸素」というのは、細胞内に生じる毒性の高い活性物質である。抗がん剤や放射線治療は、最終的に活性酸素を高めることによって細胞を殺す治療だが、佐谷氏らは、がん幹細胞には活性酸素を抑制する能力があることを見出した。そしてこの発見が、別の病気に使われていた薬剤を、がん治療薬として用いるための研究へと発展していった。

がん幹細胞のCD44vが活性酸素を低下させる

 がん幹細胞は、「CD44v」という分子を発現していることが知られている。この分子を持つ細胞は、細胞膜表面において「シスチントランスポーター(xCT)」と結合し、「CD44v-xCT複合体」を形成する。それによって細胞は活性化され、シスチンというアミノ酸の取り込みが増えて「グルタチオン」の産生が促進される。佐谷氏によれば、グルタチオンというのは、いわば火事(活性酸素)を収めるための消火器のような分子で、これにより活性酸素量が低下してがん細胞の生存能が上昇するのだという。そのため、いくら抗がん剤を投与したり放射線を当てても、なかなか死滅しない。そして実際に、抗がん剤治療後に残存した腫瘍を調べると、CD44vを持つ細胞が多く認められたという。

 佐谷氏らは、CD44vを何らかの薬剤や抗体によってブロックすることで、活性酸素が低下するのを防ぎ、がん幹細胞を殺すことができるのではないかと考え、約8年前から研究を進めてきた。大学で創薬をすることは難しい状況だった研究開始当時、佐谷氏らが行ったのは、世の中にある約2000種類におよぶ薬剤をできるだけたくさん集めて、その中から、がん幹細胞を殺してくれる薬を探すという実験だった。

 約1500種類の薬を調べた結果、30年以上にわたって潰瘍性大腸炎あるいは関節リウマチの薬として使われてきたスルファサラジンという薬が、CD44vを持つがん幹細胞に対して有効であることが明らかになった。スルファサラジンはxCTを阻害する性質を持っており、CD44v陽性細胞であるがん幹細胞を特異的に駆逐したのだ。またスルファサラジンを投与したマウスでは、腫瘍形成と転移が抑制されることもわかった。佐谷氏らは、これをすぐに臨床応用したいと考えた。

 佐谷氏らが行った既存薬を用いて新たな薬剤を生み出す(創薬)研究は今、「ドラッグリポジショニング」と呼ばれている。ドラッグリポジショニングの長所は、その薬についての安全性や薬物動態に関するデータがすでに存在すること、臨床試験に早く移行できること、そして大学の研究者が創薬の手順を学ぶことができることだという。そして短所は、多くの場合、その薬剤の特許がすでに切れているために収益が期待できず、製薬企業の関心が低いことである。そこで佐谷氏らは、「公的資金による初期臨床試験の実施」、「より副作用が少なく高い効果を持つ新規薬剤の開発」、「新規概念や適応拡大による特許出願」を対策として挙げ、研究に取り組んできた。

公的資金によりスルファサラジンの初期臨床試験を実施

 国による臨床試験への支援は、以前は開発後期(もうすぐ薬になるという段階)の治験実施体制の整備に重点を置いたものだった。しかし佐谷氏らがスルファサラジンの臨床試験を考えていた時期に、「革新的医薬品・医療機器の創出のためには、より早期段階の治験やPOC(Proof of Concept)試験等の臨床研究に比重を移し、これらの国内での実施を加速する体制の確実な整備を行うことが必要」(臨床研究・治験活性化5か年計画2012)と認識が変わり、早期の臨床試験についても支援を行うようになっていた。

 そこで佐谷氏らは、国立がん研究センター東病院の協力を得て、2013年に公的資金による医師主導の第I相試験を開始した。この試験には、国立がん研究センター東病院、慶應義塾大学のほかに、千葉がんセンター、聖マリアンナ医科大学、がん研有明病院、ゲノム医科学研究センター、国立がん研究センター研究所が参加し、進行胃がんに対するスルファサラジンの効果が検討された。

 11例の患者にスルファサラジンを投与し、胃がん組織を薬の投与前後に採取して調べたところ、治療後に明らかにがん幹細胞の数が減っていたのは4例だった。研究の方向性は間違っていないと考えられた一方で、がん幹細胞のみを抑制するだけでは早期に腫瘍全体の縮小をみることはできず、それ以外のがん細胞にも有効な治療を併用する必要があることが示唆された。

 そこで次に佐谷氏らは、九州大学病院と共同で、手術不能の進行性肺がん患者を対象に抗がん剤とスルファサラジンを併用する第I相医師主導治験を行った。その結果、無増悪生存(腫瘍が増大することなく患者が生存している)期間が、抗がん剤治療のみを行った患者では平均4から5カ月だったのに対して、抗がん剤とスルファサラジンを投与した患者では平均11.7カ月に延長するという良好な成績を得ることができた。佐谷氏は「この試験では、副作用を出さないようにスルファサラジンの量を非常に低く設定していた。この結果をもとに、今後、さらに充実した臨床試験を行っていきたい」と展望を述べた。

POC試験:研究から予測された有効性を実証したり、動物やヒトに投与して有効性や安全性を証明するなど、開発段階にある新薬が実際の治療でも有用である可能性を示すための試験。

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