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レポート

2018/11/27

第32回日本癌学会市民公開講座より(第3回)

がんの親玉「がん幹細胞」が再発や転移を生む

がんの再発を抑制する可能性のある古くて新しい薬とは?

中西美荷=医学ライター

 最新のがん治療について情報を得ようとしたとき、遺伝子、ゲノム、免疫、がん幹細胞といった言葉を目にすることも多い。それらは何を意味するのだろうか。そして今後、がん治療はどのような方向に進んでいくのか。

 日本癌学会学術総会に合わせて、大阪で9月29日に開催された第32回日本癌学会市民公開講座では、「近未来のがん治療を知りたい!最新がん治療の実際」をテーマに、第一線で活躍する専門家3名が講演した。その概要を、3回に分けてレポートする。3回目は、がん幹細胞について。


がんはなぜ再発・転移するのか?

 慶應義塾大学医学部・先端医科学研究所遺伝子制御研究部門教授の佐谷秀行氏(写真)が「脳神経外科医であった当時、最初にぶち当たった壁」と振り返るのは、悪性脳腫瘍の再発だった。

 脳血管障害や交通事故による外傷など、脳外科医が診る患者の多くは来院時の状態がもっとも悪く、治療により快方に向かう。悪性脳腫瘍も外科手術の技術が向上し、正常な脳組織を傷つけることなくほぼ全てを切除することが可能で、残存する可能性のあるがん細胞に対しては放射線治療や抗がん剤治療が行われる。

 それでも多くの患者が数カ月で再発し、再発後の治療は難しい。「なぜ治療ですべてのがん細胞を駆除することができないのか?」という疑問が、佐谷氏ががんの再発について研究を始めるきっかけとなった。

残存する「がん幹細胞」が増殖することでがんが再発する
 
 佐谷氏は「あの薬ががんにも効く!?〜今、がん治療薬の開発でおこっている大きな変化」と題する講演で、がんの再発におけるキーワードは「がん幹細胞」だとした。「がんは、どんどん増殖するコントロールできない細胞増殖」だと考えられていたが、実はその大もととなる細胞が存在していた。この親玉とも言える細胞が「がん幹細胞」であり、これが分裂して子分の細胞を増やしていく(自己複製)ことで、がん組織はどんどん大きくなっていく。それはいわば蜂の巣のようなもので、そこには必ず女王蜂がいて、すべての働き蜂は、この女王蜂から生まれてくる。

 がん幹細胞には、持続的増殖を続け、寿命が長いという特徴がある。そして通常のがん細胞に比べて、はるかに治療が効きにくい(治療抵抗性の)細胞でもある。働き蜂が全て死んでしまっても、女王蜂が生き残ればまた働き蜂が生まれてくるように、治療後に残ったがん幹細胞から再発や転移が起こるのだ。

がん幹細胞ができる原因は遺伝子変異や慢性炎症

 では、がん幹細胞はどのようにしてできるのだろうか?

 佐谷氏によれば、ひとつは正常組織を作る大もとである「幹細胞」に強力な遺伝子変異が起こることによる。こうした遺伝子変異が起こることは不可抗力であり、残念ながら予防することは難しいという。このタイプのがん幹細胞が原因となるがんには、白血病、小児のがんや、一部の成人腫瘍などがあり、がん全体の10%前後を占めている。

 もうひとつの原因は慢性炎症である。佐谷氏は、ウイルス性肝炎が肝がんを引き起こすことや、胃がんの多くはピロリ菌という細菌の感染によって起こることを例に挙げ、「ウイルス感染、細菌感染などにより炎症が起こると、組織は損傷し、体はこれを修理しようとする。慢性炎症によって組織の損傷と修復が繰り返されるうちに細胞の異常な増殖が始まり、がん幹細胞ができてくることがある」と説明した。

 また機械的刺激も慢性炎症の原因のひとつであり、たとえば未治療の虫歯が舌に当たることで起きた口内炎を放置すると、口腔がんができる場合もある。さらに、炎症性物質を多く分泌する脂肪細胞が肥大あるいは増加した肥満や糖尿病も、がん幹細胞ができやすい状態だと考えられる。

 佐谷氏は、「このような生活習慣や感染を下地として長い期間をかけてできてくるタイプのがん幹細胞は、生活習慣の是正や感染の除去により、ある程度防ぐことができる可能性がある」と話した。

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