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レポート

2018/11/20

第32回日本癌学会市民公開講座より(第2回)

免疫系のブレーキを解除する新たな免疫療法

次は遺伝子改変T細胞免疫療法へ

中西美荷=医学ライター

 最新のがん治療について情報を得ようとしたとき、遺伝子、ゲノム、免疫、がん幹細胞といった言葉を目にすることも多い。それらは何を意味するのだろうか。そして今後、がん治療はどのような方向に進んでいくのか。
 日本癌学会学術総会に合わせて、大阪で9月29日に開催された第32回日本癌学会市民公開講座では、「近未来のがん治療を知りたい!最新がん治療の実際」をテーマに、第一線で活躍する専門家3名が講演した。その概要を、3回に分けてレポートする。2回目は、がんの免疫療法について。


 手術、抗がん剤、放射線と並んで第4のがん治療とも呼ばれるようになった「免疫療法」は、今年ノーベル医学・生理学賞を受賞した「免疫抑制の阻害による癌治療法の発見」により可能となった新たながん免疫療法のこと。それはどんな治療法で、従来のがん免疫療法とはどう違うのだろうか? 山口大学大学院医学系研究科・免疫学教授の玉田耕治氏が「がん免疫療法って何?―しっかり学んで正しく理解しよう」と題して講演した。

異物を排除するシステムを利用してがんを排除する

 よく「免疫力が高ければ、風邪をひきにくい」などと言われるが、免疫はウイルスや細菌など体にとっての異物をみつけ、排除しようとする仕組み。がんは正常な細胞ではない異物ともいえる細胞がどんどん増えていき、さまざまな悪さをする病気であることから、免疫をがん治療に利用しようとする試みは古くから行われてきた。

 その免疫とはどんな仕組みなのだろうか。免疫反応を担う戦士の役割をしている「免疫担当細胞」は血液の中の白血球である。ただ、白血球というのは非常に大きなまとまり、いわば免疫軍団のようなもので、その中には役割の異なるさまざまな細胞がある。免疫反応は非常に複雑だが、中心的な役割を果たす細胞の動きを追うことで、何が起こっているのかというイメージをつかむことができる。

「樹状細胞」「ヘルパーT細胞」「キラーT細胞」とは?

 免疫の司令塔の役割をしているのは、木が枝を出したような形をしている「樹状細胞」だ。司令官は自ら陣地(体内)を見回る見張り役もしていて、よそ者の目印である「抗原」を持つ敵方兵士(異物)の侵入をみつけると、捕えてどんな敵なのか特徴を分析(取り込んで分解)した上で、その特徴を、「抗原シグナル」として実働部隊の「T細胞」に与える(抗原提示)。

 T細胞は、「T細胞受容体」というアンテナで、抗原シグナルを受け取ると出動態勢に入る(活性化される)。T細胞にはいろいろな種類があるが、免疫の仕組みを理解するために覚えておきたいのは「ヘルパーT細胞」と「キラーT細胞」である。ヘルパーT細胞はいろいろな物質を出して、ほかの免疫細胞が働きやすい環境を作る応援部隊のようなものである。そして、がん細胞を殺す攻撃部隊がキラーT細胞である。

非特異的免疫療法から特異的免疫療法へ

 玉田氏によれば、1970年代にはすでに、がんに対する「非特異的免疫療法」が行われていた。これは「体の中の免疫を、とにかく元気にすれば何かいいことがあるのではないか。免疫ががんを殺してくれるのではないか」という考え方に基づくものである。ひとつは「養子免疫療法」と呼ばれるもので、患者の白血球を採取して、体外でキラーT細胞を増やして戻す治療法である。ただこの治療法では、がんだけを殺すことが難しかった。

 その後、1990年代に入り、正常細胞にはなく、がんだけが持つ目印(がん抗原)が明らかになってきたことで、「特異的免疫療法」が行われるようになった。「がんワクチン療法」もそのひとつである。がん抗原を人工的に合成して患者に投与することで、がんを排除する免疫(がん免疫)を活性化させようとする治療法だが、あまり芳しい成績を残すことができなかった。がんでは非常に強い免疫系のブレーキ(免疫抑制)がかかっていたからだ。

自己を攻撃しない「免疫寛容」という仕組み

 では免疫系のブレーキとはどのようなものなのか? 異物の特徴を知らせる抗原提示を受けて活性化したT細胞が実際に働き始めるためには、実は同時に、「この目印を持っているのは、間違いなく攻撃すべき敵だ」ということを伝える「刺激性共シグナル」を受け取る必要がある。しかしここで、「これは敵ではなくて味方だったので攻撃中止」とする「抑制性共シグナル」を受け取ることもある。その場合、T細胞は活性化の状態を維持できず、任務は中止となる(免疫寛容)。免疫は、間違いがあって自分自身を攻撃しないために、こうした仕組みも備えているのである。

 玉田氏はT細胞を車にたとえ、「活性化はエンジンをかけた状態である。刺激性共シグナルはアクセル、抑制性共シグナルはブレーキの役割を果たし、これらのシグナルがうまく働いていれば、車を安全に走らせることができる(免疫がきちんと機能する)。アクセルが強すぎると急発進(自己を攻撃)してしまったり、ブレーキが強く急ブレーキをかけたりすると車がうまく動かない危険な状態(異物を排除できない)になる。免疫は、こうしたいくつものシグナルの関与によって、うまく作用している」と説明した。

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