くすぶり型骨髄腫の段階からの早期治療
多発性骨髄腫の前段階である「くすぶり型多発性骨髄腫」は、診断から5年間は年10%が骨髄腫になり、次の5年間は年3%、10年以降は年1%といわれ、「診断初期は多発性骨髄腫に移行するリスクが高い」。病勢進行を予測する因子も報告されている。(1)M蛋白成分の遊離軽鎖(FLC)とM蛋白成分以外のFLCの比が100以上、(2)骨髄中のクローン性形質細胞の割合が60%以上、(3)画像検査MRIで局所病変が2つ以上、では骨髄腫に移行する割合が高いため、「これらの特徴を持つくすぶり型で多発性骨髄腫は、最初から積極的に治療したほうがいいのではないかといわれている」。
高リスクくすぶり型多発性骨髄腫を対象に、すでに有望な治療成績も得られている。その1つが、カルフィルゾミブとレナリドミド、デキサメタゾンを併用し、高用量化学療法を伴うASCTを行い、地固め療法、維持療法を行う第2相試験(GEM-CESAR)。試験の結果、良好なPFSおよびOSが得られている。またダラツムマブ単剤による第2相試験Centaurusも進行中である。
次世代の治療として期待の2剤とCAR-T療法
新しい薬の臨床試験も数多く行われており、特に注目されるのは選択的核外輸送タンパク質(XPO-1)阻害薬のselinexorと、選択的BCL-2阻害薬のvenetoclaxであるという。
Selinexorは、がん関連因子を含む輸送基質(蛋白質)を核外へ輸送する分子XPO-1と結合することで、その働きを阻害し、抗腫瘍活性を示す。第2相試験(STROM)では、4剤あるいは5剤の前治療が抵抗性になった患者でも効果を示した。米国では2018年7月に、selinexorは5剤抵抗性の多発性骨髄腫の治療薬として新薬承認申請の逐次申請が行われている。この5剤とは、プロテアソーム阻害薬のボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、免疫調整薬のレナリドミド、ポマリドミド、抗CD38抗体のダラツムマブのこと。
またBCL-2阻害薬venetoclaxは、ボルテゾミブ、レナリドミド、あるいは両方に抵抗性の患者を含む再発・難治性多発性骨髄腫を対象とした第1相試験で有望な結果が得られた。現在、ボルテゾミブ+デキサメタゾンとvenetoclaxまたはプラセボ併用の第3相試験が行われている。
さらにキメラ抗原受容体(CAR)発現T細胞を用いた治療(CAR T療法)も試みられている。CAR T療法は、患者の血液から取り出したリンパ球(T細胞)に、がん細胞の表面に発現している抗原を認識する遺伝子を組み込んで攻撃性を高め、再び体に投与する治療。例えば、大阪大学の研究グループが着目したのは、細胞間の接着に必要な分子で、骨髄腫細胞の細胞表面で活性化しているインテグリンβ7。このインテグリンβ7に結合する抗体MMG49を組み込んだCART-T細胞は、多発性骨髄腫に対して抗腫瘍効果を示している。
「多発性骨髄腫の治療は非常に進歩しており、治癒が難しかった病気から、将来的には治癒可能な病気になるのではないか。さらに新しい薬が期待される」と木崎氏は話した。