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レポート

2018/7/26

バイオシミラーって何だろう

医療制度の持続のために活用は不可避?

森下紀代美=医学ライター

 遺伝子組換え技術や細胞培養技術等を応用し、微生物や細胞が持つタンパク質(ホルモン、酵素、抗体等)を作る力を利用して製造されるバイオ医薬品は、「生物学的製剤」とも呼ばれ、がんや血液疾患、自己免疫疾患などの治療薬として大きな恩恵をもたらしている。がんの治療では、HER2陽性乳がんの予後を大きく改善したトラスツズマブ、大腸がんや非小細胞肺がん、乳がんや卵巣がんなど多くのがんに投与されるベバシズマブ、そして免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブやペムブロリズマブなどもバイオ医薬品である。

 これらバイオ医薬品の有用性は高く評価されているが、その一方で、高価なことがやり玉に挙げられつつある。高齢者社会を迎え、ますます増加する医療費を抑えることができなければ、国民が平等に医療を受けることができる現在の医療制度の破綻につながりかねないからだ。バイオ医薬品は今後も重要な選択肢であることは間違いないが、医療費に占める割合が増大していることから、何らかの対策が求められている。

 そこで期待されているのが、バイオシミラー(バイオ後続品)だ。バイオシミラーは、先行のバイオ医薬品と同等/同質の有効性と安全性を持つことが担保された医薬品。先発薬の特許・再審査期間が終了した後に発売されるという点では後発医薬品(ジェネリック医薬品)と同じだが、ジェネリック医薬品が先発薬と同じ有効成分を含んでいるのに対し、バイオシミラーは構造が複雑で先発薬と全く同じであると証明するのが難しく、品質特性解析に重点が置かれ、安全性と有効性がバイオ医薬品と同等であることを確認するために臨床試験が行われるという違いがある(有効性に関する臨床試験は省略できる場合がある)。

 バイオシミラーの薬価は先行する薬剤の約70%に設定されている。現在日本で承認されているバイオシミラーのうち、がん関連の薬剤はリツキシマブ、トラスツズマブ、G-CSF製剤の3種。

 こうした状況の中、第1回バイオシミラー勉強会(開催:ファイザー株式会社)が、「バイオ医薬品・バイオシミラーの基礎と医療制度を取り巻く環境について」をテーマとして6月に東京都で開催された。

バイオシミラーの活用は医療制度を持続するために不可避

 バイオ医薬品は1980年代から実用化され、糖尿病治療薬のインスリン、C型肝炎治療薬のインターフェロン、がんの治療薬に使われるリツキシマブなどが相次いで登場した。

 医療におけるバイオ医薬品の重要性は、売上にも反映されている。2014年には、日本において売上が上位の医薬品10製品のうち、バイオ医薬品は2製品で、2位のベバシズマブは1044億円、5位のインフリキシマブは875億円となった。さらに2017年には、10製品のうちバイオ医薬品は3製品となり、1位となったベバシズマブは約1142億円、3位に入ったニボルマブは約1002億円、5位のインフリキシマブは約828億円となっている(IMS医薬品市場統計)。バイオ医薬品の売上げは今後も伸びることが予測され、医療費、薬剤費に占める割合はさらに増加するとみられている。

 一方、日本の医療費は年々約1兆円ずつ増加し、右肩上がりに上昇している。2016年度の医療費は41.3兆円、このうち薬剤費は7.5兆円だった(厚生労働省「平成28年度 医療費の動向」より)。今後も日本の医療制度を維持するためには、高騰する医療費を少しでも抑える対策が急がれ、バイオシミラーの活用はその1つとなる。

 ただし、2016年のバイオ医薬品の売上は約1兆4219億円だったのに対し、バイオシミラーは約184億円だった(医薬産業政策研究所 リサーチ・ペーパーシリーズNo.71)。バイオ医薬品と比べて、バイオシミラーは普及しているとは言えない状況にある。

 セミナーで講演した東京薬科大学薬学部薬事関係法規研究室教授の益山光一氏は、「バイオ医薬品は、生命を脅かす重篤な疾患や慢性疾患の治療薬として多大な恩恵をもたらし、今や必須のものとなりつつある」としたうえで、厚生労働省でジェネリック医薬品のアクションプログラムを策定した経験から、「平等に医療が受けられる日本の医療制度を持続させるためには、増加する医療費を少しでも抑えることが必須。バイオシミラーの活用は不可避な状況と考える」と話した。

 2017年の売上で上位を占めるバイオ医薬品は、2020年までに続々と特許満了期間を迎える。バイオ医薬品は今後も使用が増加することが予測され、特許期間を過ぎたバイオ医薬品をバイオシミラーに置き換えることができなければ、医療費のさらなる圧迫につながることは明らかだ。

 こうした状況に対し、国も対策を打ち出している。2015年の厚生労働省の医薬品産業強化総合戦略では、バイオシミラーを産業として育成する方針が盛り込まれた。さらに、2017年には「経済財政運営と改革の基本方針2017(骨太の方針)」において、「2020年度(平成32年度)末までにバイオシミラーの品目数倍増(成分数ベース)を目指す」と明記された。

有効性と安全性はバイオ医薬品と同等/同質

 バイオシミラーの使用促進において、課題となるのが、有効性と安全性が先行のバイオ医薬品と同じかという点だ。

 医療機関でバイオシミラーの処方意向が低い理由を調査したところ、「先行バイオ医薬品との製剤の同等性に懸念がある」としたリウマチ専門医、がん専門医が最も多かった。「臨床試験で評価していない有効性に対する懸念がある」「未知の副作用に対する懸念がある」などの理由も多くあげられた(田邊康祐ら、Progress in Medicine 2016:36(2);291-300)。

 過去のジェネリック医薬品の調査でも、医療機関がジェネリック医薬品を処方しない理由では「製品に関する情報が不十分なため」が最も多く、採用するための条件としては「安全性が確保されること」「有効性が証明されること」が多くあげられていた(平成16年度厚生労働省研究委託事業「ジェネリック医薬品の現状と課題を把握するための調査研究報告書」)。ジェネリック医薬品は、先発医薬品と有効成分、品質特性、有効性、安全性が全て同一であることが承認の条件として求められる。

 ジェネリック医薬品の導入時は「安いから使うように」と言われていると受け止められ、多くの反発があり、定着には長い時間がかかった。バイオシミラーも「安かろう、悪かろう」と受け止められてしまうと普及はおぼつかない。益山氏は「バイオシミラーの品質や科学的評価の結果などについて、医療従事者と国民に適切な情報発信を行っていくことが大切になる」と指摘した。

 まず、バイオ医薬品とバイオシミラーの特徴を正しく知る必要がある。そもそもバイオ医薬品は、生物が産生していること、製造工程が複雑であることから、常に同一の製品を作ることは困難で、品質の特性に差が生じることがある。ただし、このような品質のばらつきは規格の範囲内であり、一定の品質が維持されている。バイオ医薬品の開発では、有効性と安全性を証明することが最も重要とされ、臨床試験の規模や数も大きいものとなる。

 一方、バイオシミラーは、国内ですでに承認された先行のバイオ医薬品と「同等/同質」の品質、安全性、有効性を持つよう開発された医薬品で、先行バイオ医薬品とは異なる製造販売業者が開発したもの。「同等/同質」は全く同一という意味ではなく、品質特性で類似性が高く、安全性、有効性に有害な影響を及ぼさないということだ。

 バイオシミラーのアミノ酸配列は先行バイオ医薬品と同一であるが、糖鎖の組成の割合などは完全には一致しない。製造に使われる細胞株や培養の工程が製造販売業者によって違うためだ。バイオシミラーの開発は、バイオ医薬品の製造工程変更に関するガイドラインのコンセプトに基づいて行われている。

 バイオシミラーの開発では、先行のバイオ医薬品と類似性が高い医薬品を作ることが重要とされ、品質特性解析に重点が置かれる。その後、非臨床試験、薬物動態(PK)と薬力学(PD)を評価する臨床薬理試験、臨床試験へと進められる。

 安全性をさらに評価するため、バイオシミラーが承認された後には、免疫原性などについて製造販売後調査が行われる。免疫原性とは、投与したバイオ医薬品が抗原となって抗体を産生することで、治療効果を低下させたり、有害事象が増加したりするとされている。

 益山氏は最後に、「今は2人に1人ががんにかかる時代。社会全体からの視点も持ち、日本の平等な医療制度を持続させて、1人でも多くの患者さんが有効な薬を使える時代であってほしい」と述べ、講演を終えた。

 日本で抗がん剤として初のバイオシミラーであるリツキシマブが発売されたのは昨年の9月のこと。まだその歴史は浅いが、いずれ「バイオシミラーにしませんか?」と普通に聞かれる日が遅からずやってくる。その時のために、バイオシミラーとは何かを今から知っておいても悪くはないだろう。

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