2018/06/11
最近増えている乳房再建、放射線療法も安全に行えるように
数年前までは年々、乳房温存手術を受ける患者が増えていたが、最近ではむしろ乳房温存手術は減って、乳房全切除術を受ける患者が増加している。乳房全切除術を受けた患者の一部では乳房再建術を受けることができ、人工物を用いた乳房再建に保険が適用されて以降、人工物再建は増えている。
乳房再建術には自家組織を用いた再建術と人工物を用いた再建術がある。自家組織による乳房再建術には、広背筋皮弁術や、「少し手術は難しいが」深下腹壁動脈穿通枝皮弁術などがある。広背筋皮弁術は「背中の筋肉を使うので組織量が少なく、大きな胸の方には向かないが、妊娠出産希望の方には良い手術である」(山内氏)。また深下腹壁動脈穿通枝皮弁は、「お腹の脂肪を血管をつけたまま乳房につなげるので、患者さんによっては組織量が多くとれ、脂肪を使うので柔らかい」。しかしお腹に大きな傷が入るので、妊娠出産希望の方はできない手術であるという。
自家組織を用いた再建術を受けた患者では、放射線療法は合併症が少なく、比較的安全に行えることがわかってきた。一方で、人工物を用いた再建術は、自家再建術後と比較して照射による合併症のリスクは高いといわれる。人工物を用いた再建術にはエキスパンダーとインプラント(プロテーゼ)が使われる。まずエキスパンダーを乳房切除の後に埋め込み、生理食塩水を入れて、手術後の皮膚や皮下組織を伸ばす。皮膚や皮下組織が伸びた状態になったら、インプラントを入れて乳房が作られる。
山内氏らは、「乳癌診療ガイドライン」2018年版において、多くの論文を解析した結果、インプラントへの照射は照射しない場合に比べて合併症は約9倍、エキスパンダーへの照射では合併症は約23倍になると記載している。そのため「インプラントによる再建乳房に対する放射線療法は、行うことを弱く推奨する」(CQ8b)となっている。この「行うことを弱く推奨する」とは、4段階で評価される推奨の強さの上から2番目で、「どちらかというと行うことを勧める」という意味になる。一方、「エキスパンダー挿入中の放射線療法は、行わないことを強く勧める」(CQ8c)と書かれている。
「数字だけを見ると非常にリスクが上がるように感じるが、人工物再建の場合、合併症は増加するが放射線療法の益を重視するべきである」と山内氏は述べ、人工物再建をした後で放射線療法が必要であることがわかったら、放射線療法は受けていただくべきだと思う」とした。また最初から放射線療法が必要な患者さんであれば、「自家組織再建を最初から考えてもいいのではないか」とし、人工物再建でも「エキスパンダー留置中に放射線療法は避けて、インプラントに入れ替えてから放射線療法を受けるほうがいい」とも話した。
放射線療法後の乳房再建も可能、乳房をあきらめなくてすむ時代に
それに対し、再建術を受けることを予定しておらず、乳房全切除して放射線療法を受けた後に乳房再建をするのはどうか。これについては「これまでは放射線療法を受けた後に再建することは、合併症が多くなるので良くないといわれていたが、今回のガイドラインではそこが少し変わってきた」と山内氏は説明する。
ガイドラインでは「(胸壁)照射歴のある患者に対する乳房再建は勧められるか?」(外科療法BQ10)という質問項目があり、それに対し、自家組織を用いた乳房再建は「可能である」。しかしインプラントを用いた乳房再建は「あまり勧められない」と書かれている。インプラントによる再建では、人工物の周りの被膜のひきつれ(拘縮)、感染、創傷治癒の遅れ、乳房皮膚部分の壊死などの合併症が報告されている。そのため「自家再建であれば比較的安全に行えるようになってきたが、人工物による再建はまだ合併症が起こりやすいので注意が必要」と山内氏は述べた。
しかし乳房再建をあきらめないために、「喫煙は絶対だめで、皮膚の保湿を心がけてほしい。皮膚や皮下の組織を柔らかく保つことで合併症を減らすことができる」とした。「これまでは再建と放射線療法は相容れないものと考えられていたが、根治性を損なわず、乳房をあきらめなくてすむ時代になってきた」と話した。