このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2018/1/17

治療の選び方(泌尿器がん) Vol.2

高齢者ががんになったとき

福原 麻希=医療ジャーナリスト

 高齢のがん患者は増加しており、第55回日本癌治療学会学術集会ではシンポジウム「超高齢社会のがん治療」が組まれた。高齢者が罹患しやすいがんのうち、今回は泌尿器がんについての発表内容と独自の取材を組み合わせて、その考え方と事例を紹介する。


東北大学大学院医学系研究科(泌尿器科学)講師の三塚浩二医師

 高齢者ががんになったときの治療に対する基本的な考え方については前回の連載記事で詳しく報告した。本稿では、さらに、高齢者の罹患率が高い泌尿器科のがん(前立腺がん・膀胱がん)について、セカンドオピニオンでよく聞かれる内容を紹介する。

前立腺がんはすぐに治療せず経過観察することも
 泌尿器科のがんで、高齢者に罹患が多いのは、「前立腺がん」と「膀胱がん」である。特に、前立腺がんは男性のがん罹患者数の上位(2015年16年1位、17年3位※1)で、75歳以上の患者が増加している。

 前立腺がんの早期がんでは「監視療法」を勧められることがある。監視療法とは、がんが小さく、悪性度が低いと判定された場合、すぐに治療せず経過を観察するという方法のこと。医師が診察して、がんが進行する徴候が見られたら、その時点で治療を始める。だが、患者によっては「がんと診断されたが、このまま経過観察だけで本当にいいのか」と心配になるかもしれない。

 東北大学大学院医学系研究科(泌尿器科学)講師の三塚浩二医師は「近年、前立腺がん検診の普及により、治療の必要のないがんが見つかることもあります。今のところ、治療が必要ながんだけを見つけることはできないため、健康状態のいい方の場合は監視療法をお勧めして、定期的に検査をしていきます」と説明する。

 実は、前立腺がんを持っていても、罹患していることを知らずに亡くなっていく人(「潜在がん」と呼ばれる)も多い。2016年に発表された研究によると(※2)、80歳以上の男性を死亡後に解剖した結果、6割弱の人に潜在がんが見つかった。70歳以上でも初めて前立腺がんが見つかったという人は5割程度だった(図1)。この研究では、対象者ががん以外の原因で亡くなっていたため、前立腺がんが体にできていても生命には関係なかった可能性を示した。

図1 日本人男性の潜在がんの割合(三塚浩二氏提供) 前立腺がんに罹患していることを知らずに亡くなっていく人は80歳以上で6割弱、70歳以上でも5割程度いる。

年齢や健康状態を勘案して治療法を選択
 このように、生命にリスクを及ぼさないタイプのがんを診断してしまうことは「過剰診断」と呼ばれ、近年、診断上の課題となっている。また、がんを治療することで、かえって患者のQOL(Quality of Life、生活の質)を下げることもある(「過剰治療」と呼ばれる)。例えば、前立腺がんの手術や放射線治療の後には、合併症として排尿障害(頻尿・尿もれ等)や性機能障害の可能性がある。三塚氏はこの「前立腺がんの過剰診断・過剰治療」について、社会に問題提起している医療者の一人だ。

 海外の研究では、高齢になるほど前立腺がんの悪性度は高くなりやすいと発表されている(※3)が、高齢者で健康状態が悪い(心臓や肺の持病や栄養状態の低下など)場合は、症状がなければすぐに治療しない「待機療法」を選んでもいいという。前立腺がんには「ゆっくり進行する」という特徴もあるからだ(図2)。「前立腺がんが転移するまでには平均5~8年かかると言われており、余命を含めて検討し、治療しない方が生活しやすいだろうと判断することもあります」と三塚氏は説明する。

図2 前立腺がんの治療選択(日本泌尿器科学会編「前立腺癌診療ガイドライン2016年版」(メディカルレビュー社)を基に作成)

 一方、高齢者という理由だけで積極的な治療を受けていない事例もある。特に前立腺がんが進行し、ホルモン療法では効果がみられなくなったとき、次の治療として高齢者で問題になりやすいのは「抗がん剤治療を受けるかどうか」という。抗がん剤治療によって生存期間の延長が期待できることもあるが、副作用で全身のだるさや食欲不振、下痢などが出るため、躊躇する患者も多いそうだ。だが、前立腺がんは進行すると骨に転移しやすく、その痛みで日常生活を過ごしにくくなることもある。国立がんセンター東病院を中心とした研究では「前立腺がんの患者が治療決定時に重要視することは生存期間の延長ではなく、全身のだるさや痛みの軽減だった」(※4)という発表もあった。

 三塚氏は「治療によって、がんの進行に伴うつらい症状を避けられたり、軽減できたりすることもあります。治療選択は年齢だけで決めることなく、健康状態を勘案しながら適切に選んでほしい」と助言している。

  • 1
  • 2
この記事を友達に伝える印刷用ページ