国立がん研究センターがん対策情報センターがん臨床情報部の東尚弘部長
国立がん研究センターは5月26日、がん診療連携拠点病院を中心とする全国232施設において、2012年にがんと診断されて治療を受けた患者31万2381人の治療実態を調査した結果を発表した。同センターがん対策情報センターがん臨床情報部部長の東尚弘氏によれば、標準診療の実施率は項目によって差がみられたものの、標準診療を実施しなかった場合も、全身状態の低下や併存症、患者の希望といった患者側の要因や年齢などが考慮された可能性があることがわかった。
標準診療の実施率と未実施の理由を全国規模で調査
2015年6月、厚生労働省のがん対策推進協議会は「第二期がん対策推進基本計画」の中間評価を報告した。報告によると、全体目標としていた「10年で75歳未満の年齢調整死亡率(※1)の20%の減少」の達成は難しく、国立がん研究センターの推計では17%の減少にとどまる見込みであるという。当初、20%の減少には、「喫煙率の低下」「検診受診率の上昇」「がん医療の均てん化」が貢献すると想定されていたが、喫煙率と検診受診率は目標に達しないことが明らかになった。また、がん医療のてん化については、評価・測定する体制がまだ整っていないのが現状だ。
そのため国立がん研究センターは、がん医療の均てん化を評価する体制の構築を目指し、がん診療連携拠点病院などを中心に、2011年から治療実態調査を開始した。今回発表された2012年の調査からは、自主的に参加した全国232施設における、科学的根拠に基づいて行われる「標準診療」の実施率と、参加施設のうち協力が得られた56施設における、標準診療を行わなかった「未実施」の理由が明らかになった。
標準診療の質を評価するための指標(Quality Indicator:QI)は、日本胃癌学会や日本乳癌学会といった各学会が発行している診療ガイドラインなどを参考に、各分野の臨床専門医らが作成した。
実際の調査では、どのような患者に診療が行われたかがわかる「院内がん登録」と、どのような診療が行われたのかがわかる「DPC(※2)またはレセプト(※3)」を組み合わせ、これにQIが当てはまるかを検討した。例えば、院内がん登録から抽出された「ステージIIIで新しく治療を受けた大腸がん患者」が、「手術後、標準的な化学療法を受けたか」どうかはDPCまたはレセプトでわかる。QIは当初作成された206項目から、院内がん登録とDPCのデータから信頼性のある測定が可能な、5つのがんと支持療法に関する9項目に絞り込んだ。調査では、患者の匿名性は保持された。