これまで外科手術と放射性ヨウ素内用治療、甲状腺刺激ホルモン抑制療法が主な治療法だった甲状腺がんに、新たに分子標的薬であるソラフェニブが加わった。さらに今後、分子標的薬が承認される見込みで、治療の選択肢は一気に増えてくる。一方、分子標的薬は特有の有害事象があり、適切なマネージメントが求められる。そこで日本甲状腺外科学会、日本内分泌外科学会、日本臨床腫瘍学会は共同で、「甲状腺癌診療連携プログラム」を策定し、開始した。10月22日に記者会見があり、プログラムの概要を紹介した。こうした学会を通じての診療科をまたいだ連携は、今後、希少がんを中心に増えていきそうだ。
10月22日開催された記者会見。プログラムは7月から開始された
日本における甲状腺がん患者は年間約2万9000人で、年間死亡者数は約1700人となっている。全甲状腺癌の95%を占めるのが分化型甲状腺癌で、そのうちのほとんどは乳頭がんと呼ばれる組織型が占める。乳頭がんは予後が良好とされているが、リンパ節転移が多く、ときに局所浸潤が激しいタイプがあるという特徴がある。濾胞がんという組織型は甲状腺がんの5.5%程度で、遠隔転移がなければ予後は良好で、周囲への浸潤はリンパ節転移は少ないが、血行性遠隔転移を起こすタイプもある。
最も予後が不良なのは未分化がんで、乳頭がんや濾胞がんが突然変異(未分化転化)して発生することが多いことが知られている。
甲状腺がんに詳しい日本医科大学内分泌外科教授の杉谷厳氏によれば、最も多い乳頭がんについて、「治療開始時点でおよそ80~90%が低危険群でがん死する危険がないものだが、10~20%は高危険群でがん死する可能性が高い」という。杉谷氏が以前に勤めていたがん研有明病院における乳頭がんの危険度分類によれば、高危険群とは、遠隔転移あり、高齢者(50歳以上)で、高度の甲状腺外他臓器浸潤あり、巨大なリンパ節転移(3cm以上)あり、とされている。
1993年から2010年までにがん研有明病院を受診した患者のデータをもとに疾患特異的生存曲線を検討した結果、低危険群(症例数967例)の原病死は1%で、5年生存率100%、10年生存率99%だが、高危険群(220例)の原病死は20%、5年生存率88%、10年生存率74%という成績だった。
高危険群に対する治療の第一選択は外科手術で、甲状腺全摘、隣接臓器合併切除、拡大リンパ節郭清などが行われる。初回診断時に遠隔転移がない場合で、初回手術後の無再発生存期間が3年超の場合、10年生存率は96%と良好だが、初回診断時に遠隔転移がある場合、あるいは初回手術後の無再発生存期間が3年以下の場合、10年生存率はそれぞれ33%、48%と低下しており、遠隔転移や切除後にすぐ再発が認められた症例は予後が不良なのが現状だ。なお、遠隔転移例であっても遠隔転移先が肺のみで、腫瘍径が2cm未満であれば10年生存率は83%で、比較的予後が良好だという。
日本医科大学内分泌外科教授の杉谷厳氏
切除不能や遠隔転移例に対しては放射性ヨウ素内用療法や甲状腺刺激ホルモン(TSH)抑制療法が行われている。ただし、遠隔転移例において、放射性ヨウ素の取り込みが認められたのは22%、画像上の治療効果ありと認められたのは8%で、治療が奏効する症例が少ないのが現状だ。さらに、TSH抑制療法についても、海外の臨床試験では、THS抑制療法を行わなかった群の5年無再発生存率が89%だったのに対し、TSH抑制療法を行った群の5年無再発生存率は91%で、大きな差はなかった。
こうした中、新たな治療選択肢として日本で6月に承認されたのが、マルチキナーゼ阻害薬であるソラフェニブだ。さらに、lenvatinib、vandetanibなど、臨床試験で有効性を示した薬剤が今後承認される見込みで、治療の選択肢は増えていくと期待されている。