高リスクがんの再発抑えるトリモダリティ治療
一方、放射線療法は放射線を前立腺がんに照射することで死滅させる方法で、限局がんだけではなく局所進行がんも治療の対象となり、高リスクの人にも有効な治療法だ。放射線療法のメリットは手術より体への負担が軽く、精液は出なくなるものの性機能が温存できる可能性が高いことだ。デメリットは一時的に排尿障害が出たり、しばらく経ってから直腸炎になったりするリスクがあることだ。
前立腺がんの放射線療法には体の外から放射線を当てる外照射(外部照射)と前立腺の中に放射性物質を入れる内照射(内部照射)がある。外照射では正常な組織への照射を避けるために、3次元原体照射やコンピュータで強度を変えるIMRT(強度変調放射線治療)が活用される。内照射では、放射性物質が密封された直径4.5mmの小さなカプセル(線源)を専用の機械を使って前立腺の中に埋め込む小線源療法が主流になっている。小線源療法単独療法なら3~4日間入院するだけで治療が終わるのもメリットの一つだ。
滋賀医科大学附属病院泌尿器科講師の岡本圭生氏
「小線源療法では、IMRTなどの外照射に比べてはるかに高い線量の放射線をより正確に前立腺に当てられるので、単独治療あるいは外照射と併用することで全てのリスクの前立腺がんの再発率を非常に低く抑えられる。一度埋め込まれたカプセルは生涯留置されるが、放射線自体は1年くらいで出なくなるし、残ったチタン製カプセルが体に害を与えることはない」
こう話す滋賀医科大学附属病院泌尿器科講師の岡本圭生氏は、高リスクの前立腺がんに適した方法として、小線源療法と外照射、そしてホルモン療法を併用する「トリモダリティ治療」を紹介した。小線源療法と外照射を併用することで前立腺とその周囲により強い放射線が当てられ再発が抑えられる。「ホルモン療法そのものにがんを根治させる力はないが、放射線療法と合わせると放射線の感受性を高め治療成績を上げられる」と岡本氏は説明する。日本ではトリモダリティが実施できる施設はまだ限られているが、欧米の主要な施設(Prostate Cancer Results Study Group)のデータによると、高リスクの前立腺がんでは手術を行っても10年PSA非再発率は40%程度、IMRTを中心とする外照射では60%であるのに対し、トリモダリティでは90%と高かったことが報告されている。なお、10年PSA非再発率とは、10年後にPSA値が上昇していない患者の割合のことだ。
「腺友ネット」を運営する武内務氏
前立腺がん体験者として、インターネットを使った前立腺がん支援ネットワーク「腺友ネット」を運営する武内務氏は、同ネットの利用者には、前立腺がんが再発している人も多いことに触れ、「限局がんには手術が一番、その後再発しても放射線療法があるような説明をされる医師もいるが、手術後に再発して受けられる放射線療法は、完治を目指す初期治療とは全く別モノではないかと思う。最初に再発率の低い治療を受けることが非常に大事で、進行度、生活スタイル、価値観によってどの治療法が自分に向いているかを真剣に考えるべき」と強調。泌尿器科医の説明を聞いた後、放射線治療医の意見を求めるなどセカンドオピニオンは受けることを考えてもよいと経験者としてアドバイスした。
中には、がんになったことで落ち込み、うつ状態になった人もいたという。武内氏は、インターネットによる情報交換だけではなく、患者同士が実際に会って悩みを分かち合う患者会の開催を検討している。
「治療法を選ぶためには自分である程度知識を得ることも大事。難しい点もあるかもしれないが、私たち医療者がサポートするので、自分に合った治療法を選択肢の中から選んで相談していただきたい」と斉藤氏。最後に武内氏が「今年はホルモン剤が2つ、抗がん剤が1つ承認された。薬物療法の選択肢も増えており再発・転移している方も勇気と希望を持っていただいたら」と話してフォーラムは幕を閉じた。