頭頸部がん治療は、放射線治療や抗がん剤をうまく組み合わせることで、「切らずに治す」ことが可能になり、外科的切除がメインだった従来の治療で見られた整容性や機能障害などのQOL(生活の質)の低下が避けられるようになってきた。放射線治療や化学療法にも当然副作用への対処が必要だが、うまく対処すれば治療効果やQOL(生活の質)をさらに高められることが可能だ。頭頸部がん治療で起こりうる副作用とその対処法、治療への心構えについて、神奈川県立がんセンター頭頸部外科部長の久保田彰氏に解説していただいた。
神奈川県立がんセンター頭頸部外科部長の久保田彰氏
抗がん剤の登場で切らずに治す治療へシフト
頭頸部には、食べる、話す、聞くなどの様々な機能が集中しています。そのため、頭頸部がんの治療を考える際には、腫瘍を切除するだけでなく、これらの機能への影響を考慮することが必要です。
例えば1990年以前、進行した頭頸部がんの標準治療は手術と術後放射線療法の併用療法でした。しかし手術の後遺症として、かみ合わせが悪く噛めない、食べ物が飲み込みにくい、しゃべりづらい、声帯を切除したことで声が出ない、腫瘍の切除に伴って顔型が変化する―などで苦しむ患者さんが少なくありませんでした。そこで手術ができないほど進行したがんの延命治療として行われていた放射線治療を上手に使うことで、手術をしないで頭頸部がんを治したいという患者さんの想いに答えられないかが検討されました。
こうした中、シスプラチンを代表とする抗がん剤が登場し、「切らずに治す」ことが可能となってきました。
もととなった治療結果の1つは、1991年に報告された喉頭がんの臨床試験です。すでに、抗がん剤で治療効果が得られる頭頸部がんは、放射線治療にも良く効くことが分かっていました。そこで、抗がん剤で治療効果が得られた患者さんは放射線で治療し、抗がん剤で治療効果が得られなかった患者さんには手術を行うというグループ(A群)と、最初からそれまでの標準治療であった手術を行うグループ(B群)の生存率を比較しました。その結果、2つのグループ間で生存率に違いが認められなかっただけでなく、従来はのどを切除していた患者さんのおよそ4割ののどが残せたと報告されました。つまり、手術をしなかった患者さんが含まれているA群の生存率は、全例手術を行ったB群と差がないのですから、「切らずに治す」ことができる患者さんがいるということです。
また、1998年に報告された臨床試験では、上咽頭がんの患者さんに対して抗がん剤と放射線治療を同時併用したところ、放射線治療だけで治療したグループと比べて、生存率が向上したことが示されました。
さらに2003年には、抗がん剤と放射線治療の同時併用が最も有用であることを示す臨床試験が報告されました。喉頭がんの患者さんへの抗がん剤と放射線の同時併用療法は、抗がん剤が効いたら放射線治療を行い効かなかったら手術を実施する治療や、放射線治療のみを行う治療と比べて、生存率は変わらないものの、のどを残せる確率が高いという結果が示されました。
現在、進行した頭頸部がんの標準治療としては、手術と術後放射線治療の併用のほか、抗がん剤の効果を認めれば放射線治療あるいは効果なければ手術、抗がん剤と放射線の同時併用療法、2012年から使用できるようになった分子標的薬(セツキシマブ)と放射線治療の同時併用―など、従来は手術の選択肢しかなかった患者さんに様々な選択肢が増えました。また、再発しがんを治すことが難しい場合は、抗がん剤のほか、セツキシマブと抗がん剤の併用、緩和医療を検討し、少しでも長く有意義な時間を過ごせるように援助することができるようになってきました。