女性の全身放射線療法では「卵巣遮蔽」の選択肢も
女性の卵子は、男性の精子ほど採取が容易ではないため、化学療法前に卵子や受精卵の凍結保存ができない人が多い。そこで、神田氏らが血液がんで全身放射線療法を受ける女性患者の妊娠可能性を残すために02年から東京大学医学部附属病院で臨床研究として始めたのが、卵巣に照射される放射線量を減らして卵巣機能を温存する「卵巣遮蔽」という方法だ。
この研究は、将来、子どもが欲しいと考えている女性の血液がん患者で同意が得られた人に対し、全身放射線照射の際に、直径5センチの金属ブロックを用いて卵巣を遮蔽し、放射線が照射されにくい状態にするというものだ(図1、図2)。
「造血幹細胞移植を受けた患者でも、その前に行う治療がシクロホスファミドだけなら卵巣機能が回復する可能性が高いわけですから、放射線照射量を減らせば卵巣機能は戻るだろうという考えを根拠にしています。ただ、もともと血液がんの多くは、全身にがん細胞がある病気です。通常12Gy照射されるはずのところが、卵巣遮蔽をすることで卵巣に当たる放射線を3Gy程度に減らすことになるので、再発率が高くなる可能性を考えなければなりません」と神田氏。
図1 東京大学医学部附属病院で臨床研究として実施している卵巣遮蔽の方法
図2 一般的な放射線照射装置を使った卵巣遮蔽の方法
ベッド上のスリットの入ったウレタンマットで患者を横向きに固定し、金属片を貼り付けたアクリル板を用いることで卵巣遮蔽を行う。