ガイドラインは、まず「科学的根拠の系統的な評価」を行い、さらに「複数の方法について利益と不利益の両方の評価に基づき、適切な医療を提供するための推奨を含むステートメント(報告)」と定義されている(米国IOM:Institute of Medicine、2011年)。日本では平成15年4月に厚生労働省がん研究助成金「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班が、がん検診ガイドラインの作成手順を標準化し、それに基づいて、それぞれの部位のがんごとに「有効性評価に基づく検診ガイドライン」が作成されている。
がん検診ガイドラインを作成する場合、まず、適切な検診方法を選択するにあたって、何が課題であるかをまとめる。そして、抽出されたポイントに関連する論文を、文献検索システムを使って海外のものも含め、過去20年分ほどまでさかのぼって集めていく。この段階で収集される文献は時に3000~5000にもおよぶが、そこからさらに信頼できる研究を絞り込み、対象となる検査のエビデンス(証拠)を確認し、評価していくという流れだ。
この時、最終的な評価指標となるのが「その検査を受けることによって、死亡率の低下につながるかどうか」だ。がん検診の有効性を判断するうえで、がんの発見率や発見された病期(がんの進行段階)、有病率の減少なども重要なポイントだが、早期がんの発見が必ずしも死亡率の低下に結びつかないこともあるためだ。
こうして出された評価から、死亡率の低下という効果(利益)と偽陽性や偽陰性、偶発症などの不利益とのバランスを考え、それぞれの検査の推奨のレベルを決定する。まとめられたガイドラインは外部の専門家などの評価を受けてから公表される。
実際のガイドラインを見てみると、たとえば胃がん検診の場合、エックス線検査は死亡率減少効果を示す相応の証拠があるため、対策型検診、任意型検診ともに実施することを「推奨する」とされている(表2)。一方、内視鏡検査の場合は、現在の段階では死亡率の低下効果を示す証拠が不十分として、対策型検診では「推奨しない」、任意型検診の場合は、医療機関が「効果が不十分であること」と「不利益」について十分説明することを前提に、「個人の判断により受診可」とされている。
この違いは、対策型検診は公的なお金も費用として用いられるため、個人(受診者)の不利益を最小限にするのと同時に、「限られた資金のなかで、利益と不利益のバランスを考慮し、集団にとっての利益を最大化する」という方針が背景としてあるからだ。