3月1日から3月8日は「女性の健康週間」―。これは、日本産婦人科学会、日本産婦人科医会が2005年から開始した啓発活動で、産婦人科医が女性の健康を一生涯にわたって支援することが目的だ。今年の「女性の健康週間」を前に、女性特有のがんの現状と対策について、横浜市立大学附属病院准教授の宮城悦子氏にお話を伺った。
―なぜ女性に対する疾患の啓発活動が必要なのでしょうか。とくにがんに関してお話をお聞かせ下さい。
宮城 女性特有のがんには、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、乳がんがあります。いずれも罹患率、死亡率ともに上昇しているのが現状です。
このうち、子宮頸がんと乳がんについては、検診が非常に有効なことが分かっており、検診でがんを早期発見できれば命を救うことができるのです。そのためには、検診の有効性について理解してもらい、検診受診率の向上につなげることが必要で、啓発活動が欠かせないのです。
―まず、子宮頸がんについて詳しくお聞かせいただけますか。
宮城 子宮頸がんは、主に性交渉によりヒトパピローマウイルス(HPV)に感染するが発端となって引き起こされるがんです。このHPVウイルスは非常にありふれたウイルスで、女性が一生涯に一度感染する確率は80%以上といわれています。
HPVに感染しても9割の人は1~2年で自然にウイルスが排除されますが、残りの1割の方ではウイルスに持続的に感染し、前がん状態(異形成)に移行します。さらにその1割未満の方ががんになります。
子宮頸がんの罹患年齢のピークは30代で、近年では30-40代の死亡者数が増加し続けています。年間1万5000人が新たに発症し、3500人が亡くなってしまっているのです。
最近では、30~40代で分娩する女性が増えていますので、子宮頸がんの罹患年齢ピークと出産のピークがだんだんと近づいているのですが、これは非常に大きな問題です。というのも、子宮頸がんを早期に発見できなかった場合、命を失う危険だけでなく、その女性が子供を産めなくなる可能性も高まるからです。これは、個人にとって非常に大きな問題ですが、それだけにとどまらず社会的にも極めて大きな損失といえます。
検診を受診していれば、異形成の段階で発見できますし、もしがんへと進行していても、早期発見できていれば5年生存率は90%以上と非常に生存率が高いのも特徴です。命を救うだけでなく、必要に応じて手術をしたとしても妊娠・出産が可能なのです。ですから、定期的に検診を受診し、いかに早期にがんを見つけるかということが重要です。
―なぜ30~40代の子宮頸がん患者が増加しているのでしょうか。
宮城 昔に比べ、初交年齢が低下したことも一因として考えられていますが、これが主たる原因ではありません。というのも、ほかの先進国を見ればわかることなのですが、最大の理由は特に20~30代の女性の子宮頸がん検診受診率が低いことです。
先進国の検診受診率は60%以上で、検診受診率の増加に伴い、子宮頸がんの罹患率と死亡率が減少したことが報告されています。一方、日本では、20~69歳の人のうち、2年以内に子宮頸がん検診を受診した人は37.7%にとどまっており、罹患率、死亡率ともに増加の一途をたどっています。このことからも、検診受診率の低さが罹患者や死亡者を増加させる最大の原因だと考えられます。子宮頸がんの罹患率、死亡率を減少させるためには、検診受診率を上げることが必要なのです。
―検診はどれくらいの頻度で受ければよいのでしょうか。
宮城 厚労省の指針では、子宮頸がん検診は2年に1回受けることを推奨しています。子宮頸部から細胞を採取し、染色した細胞のかたちを顕微鏡で見る細胞診が行われますが、検査自体は1分未満で終了します。
地方自治体により異なりますが、検査費用の全額または一部を補助していますので、こうした地方自治体の検診を利用するとよいでしょう。
残念なのは、このように早期発見のためのシステムを国や地方自治体が整備しているにも関わらず、子宮頸がんの罹患年齢ピークである若い女性が、そのことを知らずに検診を受けていないことです。日本では症状が出てからようやく産婦人科医を受診する人が多く、がんが進行した状態で見つかるケースが後を絶ちません。
繰り返しますが、子宮頸がんは検診が有効ながんの1つです。がんに進行する前の段階もしくは早期にがんを発見することができれば、命を救うことができますので、定期的に検診を受診することが重要です。