日本では使えない有望な新治療薬も
小児がんには、神経芽腫、肝腫瘍、軟部肉腫などの固形がんもある。治療は、手術で腫瘍を取り除き、放射線治療や化学療法を行うのが基本だ。
「成人の固形がんでは化学療法をやっても生存期間を延ばすだけですが、小児がんの場合は、古い抗がん剤でも非常に有効です。白血病と同じように、化学療法は小児固形がんを治すための必須の治療法であることを覚えておいてください。大人が抗がん剤を拒否するのはある程度許容されると思いますが、自分の子供ががんになったときに抗がん剤を拒否するのは間違いです」と牧本氏は強調する。
表1 小児がん国際分類(主分類12種)(Cancer 2005;103:1457-67 をもとに分かりやすく改変)
ただ、未承認の薬があり、欧米の標準治療から遅れを取っているがんもある。顕著な例として牧本氏が上げたのが神経芽腫の治療法だ。
日本では、ビンクリスチン、シクロホスファミド、ピラルビシン、シスプラチンを組み合わせた化学療法の後に大量化学療法を追加するのが標準治療。しかし、高リスクの神経芽腫の患者に対しては、ニキビの治療薬である13cisレチノイン酸(イソトレチノイン)に、抗GD2抗体、GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)、インターロイキン‐2を加えることで生存率が大幅に改善(2年時点の無再発生存率が66±5%)することが2009年の米国腫瘍学会(ASCO)で発表され、翌年には『The New England Journal of Medicine』で論文報告された。
「日本では、13cisレチノイン酸と抗GD2抗体、GM-CSFは未承認薬。大量化学療法に加えてこれらの治療をしなければ、高リスク神経芽腫の無再発生存率は40%以下で、2割以上の差があります。ドラッグ・ラグ(新薬承認の時間差)によって5人に1人の子どもが再発するということです。これらの治療ができないために失う患者の命を何とか救いたい」と牧本氏は話す。