家族の体験を分かち合う「脳腫瘍家族テーブル」が1周年
一方、国立がん研究センター中央病院では、患者の自主的な会とは別に、院内のスタッフが運営するサポートグループも活動している。
その一つ、「脳腫瘍家族テーブル」が3月15日、1周年記念プログラムを開催した。脳腫瘍家族テーブルは、同院で脳腫瘍の治療を受ける患者の家族同士が、医療ソーシャルワーカーらのサポートを受けながら月1回、家族の体験を分かち合う会を開催している。
1周年記念プログラムには、脳腫瘍の患者を抱える家族ら50人が集まり、同グループの参加者の体験談や同院脳脊髄腫瘍科副科長の成田善孝氏の講演「悪性脳腫瘍の患者さんのためにできること」に聞き入った。
「脳腫瘍家族テーブル」が3月15日、1周年記念プログラムを開催した。
「小さい子供と、認知症のような症状が出て次第に自分のこともできなくなってくる妻を抱え、どうやって生活していけばよいのだろうかと、逃げ場のない気持ちに苦しみました。しかし、とにかく生きていかなければならないので、妻の面倒を見ながら朝になったら仕事に行きました。そうした状況の中、ほかの家族の皆さんはどうやっているのか話しを聞いてみたいと思ったのです。そうすれば、たとえ答えが出なかったとしても、自分なりに気持ちの整理がつくのではないかと。そして、要望させていだだいてできたのがこの会です」。
発起人の一人で脳腫瘍の妻を介護する信貴純一郎氏は、同グループの発足のきっかけをこのように話した。
脳腫瘍は、比較的患者数が少ないため情報も少なく、通常は患者や家族同士が交流できる機会もこれまではほとんどなかった。一方で、脳という特殊な場所に腫瘍ができると、生活にさまざまな支障が出るため、治療法や病院の選択、生活のサポートなどを家族が一手に抱えるケースも少なくない。同院相談支援室への相談も、脳腫瘍患者を抱える家族が目立って多いという。
脳腫瘍のために別人のようになってしまった夫の介護を体験した織井朝子さんは、「家族テーブルに参加し、共感してもらえることが、孤独から抜け出せることだと知りました。脳腫瘍に関する情報は、ほかのがんに比べて少なく、家族は医療費や生活費のことをいつも心配しなければなりません。脳腫瘍患者が申請できるサービスや制度についての情報は、家族テーブルでシェアし合って、知らなかったということがないようにしたいものです」と訴えた。サポートグループに参加する日を“休看日”と位置づけ、リフレッシュすることで介護を続けられたという家族もいる。
「脳腫瘍の患者さん自体が少ないので、ほかの病院では同じような家族会を作るのは難しいかもしれませんが、地域に脳腫瘍家族の情報交換の場のようなものができれば、救われる方も多いのではないでしょうか」。脳腫瘍家族テーブルを運営する同院相談支援室医療ソーシャルワーカーの樋口由起子氏は、そう話している。