「予測性悪心・嘔吐は、以前に吐き気を経験した人が起こすものです。そのため、吐き気を催す可能性の高い抗がん剤を使用すると説明を受けた場合はどのような制吐療法を行う予定なのかについても先生に質問し、最初から「フルパワー」で制吐薬を処方してもらった方がよいでしょう。先生は1回目は様子を見て、吐き気がでたら制吐薬を追加しよう、と考えている場合もありますが、2回目以降に制吐薬を強くしようとしても、1回目の抗がん剤投与で悪心・嘔吐を経験してしまえば、2回目の治療を受けるために病院に来ただけで吐き気がするといった予測性悪心・嘔吐が出現する可能性があるためです」(佐治氏)。
「フルパワー」とは、高度催吐リスクに対する治療として推奨されている、5-HT3拮抗薬、ステロイド、アプレピタントを同時に投与することを指す。2日目以降は、ステロイドとアプレピタントを投与する。
佐治氏は、「ただ、既にフルパワーで処方してもらっている場合には、それ以上悪心・嘔吐を抑える薬はなく、睡眠薬や抗うつ剤など鎮静作用のある補助薬を使って対応していきます。そのため、フルパワーで制吐薬を処方してもらっていても、水も飲めないほど悪心・嘔吐がひどい場合には、補助薬の追加、さらには治療方針の変更などについて、主治医に相談してみましょう」と指摘する。
また、「中等度リスクの抗がん剤を使用する場合には、一度アプレピタントなしで様子を見て、悪心・嘔吐がひどいようなら、アプレピタントを追加してもらうこともできると思います」と佐治氏はアドバイスする。
一方、中等度リスクの抗がん剤でも、一部の特定の抗がん剤(カルボプラチン、イホスファミド、イリノテカン、メトトレキサートなど)に対しては、アプレピタントを初回から使用することが、制吐薬適正使用ガイドラインでは推奨されている。
このように有効な制吐薬と効果的な使い方が示されていることで、吐き気はかなり抑えられるようになってきたが、一方で薬価の問題なども考慮する必要がある。佐治氏は、「制吐剤の薬価は、アロキシが1万4522円、イメンドカプセルは3日間で1万1302.3円です。抗がん剤に加えて制吐薬を全て処方するとかなり高額となります。また、制吐薬自体にも、頭痛やめまい、しゃっくりなどの副作用があります。特にイメンドカプセルは飲み薬のため患者さんが自分自身できちんと服用する必要があることなど自己管理が大変ですし、イメンドカプセル服用時にはステロイドを減らさなければならないため点滴の調節が必要など処方が複雑になります。また、イメンドのもつ薬剤相互作用について完全に明らかになっていない点を気にされている先生もおられます」と語る。
いずれにせよ、抗がん剤治療を受ける際の制吐薬については、処方されている抗がん剤の催吐リスクなどを十分に理解し、主治医に相談することが大切だ。