抗がん剤を投与する際には、吐き気を予防するための制吐薬が必ず使用されている。佐治氏は、「制吐薬を使用しても悪心、吐き気を感じる人は8割を超すが、その程度は以前に比べてずっと抑えられているはず」と言う。
悪心、吐き気は、抗がん剤を投与した日から3日目くらいまで続く人が多い。これらは、(1)病院に来たことや点滴を見たことにより吐き気を催してしまうなど、精神的な要因で発現する予測性悪心・嘔吐、(2)抗がん剤投与後24時間以内に発現する急性悪心・嘔吐、(3)抗がん剤投与後24時間後以降に発現する遅発性悪心・嘔吐の3種類に分けられる。制吐薬は、この悪性・嘔吐の種類に応じて処方される。
化学療法時に悪心・嘔吐が起こる仕組みについては、解明が進んでおり、セロトニンとサブスタンスPという神経伝達物質が関わっていることが示されている。セロトニンは、小腸に存在し、腸などの筋肉に作用して、消化管の運動に関与していることが知られている。急性悪心・嘔吐には、セロトニンが5-HT3受容体に結合することで起こる(図2)。制吐薬が、セロトニンと5-HT3受容体の結合を阻害すれば、悪心・吐き気を軽減させられるため、この結合を阻害する薬が制吐薬として開発された。この5-HT3阻害薬は、従来からグラニセトロン(製品名「カイトリル」など)やオンダンセトロン(製品名「ゾフラン」など)が発売されている。2010年6月に発売されたパロノセトロン(製品名「アロキシ」)は作用時間が長いという特徴がある。
サブスタンスPは、痛覚を伝える物質で、嘔吐や痛み、不安、ぜんそくなどの発生に関与していることが明らかになっている。遅発性悪心・嘔吐は、サブスタンス PがNK1受容体に結合することで起こる。2009年10月に日本で初めてサブスタンスPとNK1受容体の結合を阻害する制吐薬アプレピタント(製品名「イメンドカプセル」)が発売されてからは、遅発性悪心・嘔吐に対する支持療法も行うことができるようになった。