さらに、グラクソ・スミスクライン社は非小細胞肺がんの術後補助療法として、MAGE-A3がん抗原蛋白ワクチンを開発中だ。フェーズ2臨床試験で27%という高い再発予防効果が得られたと報告されており、2000人以上を対象とした世界規模でのフェーズ3臨床試験が進行中だ。
このように、現在、世界各国の研究者や製薬会社ががんの免疫療法に取り組んでおり、がん治療における免疫療法が改めて注目されている。
患者負担や治療内容の標準化、エビデンスの蓄積が課題
一方、現在日本の民間の施設で自由診療として行われている免疫療法は、患者ごとに得た細胞を培養して治療を行う細胞免疫療法が多い。オーダーメイド医療の要素が強く、医薬品のように一律に製造された成分を患者に投与する場合に比べて治療の効果を判定しにくく、患者が施設ごとの状況を判断する材料に乏しいのが実情だ。今後、細胞免疫療法が医師や患者の間に広く認知されるようになるためには、治療効果に関する客観的なデータ(エビデンス)の蓄積が必須といえる。
現在、免疫療法は、手術、抗がん剤、放射線療法の3大治療法ではこれ以上効果が見込めないと考えられる患者に対して行われている例がほとんどだ。
河上氏によると、こうした患者には難治性の腫瘍の割合が多く、免疫療法の治療効果が得にくい。そのため、今後は、標準治療を行った後の再発予防を目的とした治療や、3大治療との併用なども視野に入れて、治療効果に関するデータを蓄積し、将来的には保険適用につなげたい考えだ。
実際、特にこの2~3年で、どの抗がん剤とどの免疫療法を組み合わせた場合に高い効果が得られるかについての研究が盛んに行われるようになっている。そして、将来的には、抗がん剤や様々な免疫療法を組み合わせて、ヒトの免疫機構にとってがんへの攻撃力が最も高まる環境を作る、複合的な戦略が追求されていくと考えられている。
現在、白血病などの一部のがんでは、新しい抗がん剤の登場により完全寛解に至る率が増えてきたが、多くのがんは転移・再発すると、治癒が難しいのが実情だ。河上氏は、「患者さんが求めているのは、究極にはがんの治癒。少なくとも、数カ月の延命ではなく、数年単位でがんと共存し、生活が楽しめるような治療法を将来的には開発したい」と話す。