「『乳がん』かも、といわれたら ― 乳がんの最適治療2011~2012」(発行:日経BP社 価格:1200円+税)
「乳がん診療に関する全国調査2011版」を掲載。自分に合った治療や医療機関の選び方がわかります。
しかし、マンモグラフィを用いた検診の受診率が軒並み7~8割を超える欧米諸国に対し、日本の検診受診率は依然として低調です。諸外国のように乳がんの死亡率を減少に転じさせるには、敵である乳がんの実態を把握し、日本人に合った検診のあり方を考えていく必要があります。
温存6割、再建1割は納得の数字
乳房温存率は、このまま6割程度で落ち着くのではないでしょうか。約20年前までは考えられなかった乳房温存が可能になり、「どんどん温存率は上がるのではないか」と、患者さんはもちろん、医師の期待感も高まりました。
しかし適応には限界があります。がんをしっかりと取りきったうえで、きれいな乳房を残してこその「温存」です。大きな傷が残ったり、くぼみや変形が生じたら、患者さんはうれしくありませんから。
乳房切除後の再建が1割というのも納得できる数字です。全切除した患者さんのうち、どうしても再建したいという要望があるのは半分以下、3分の1くらいという印象があります。人工物を使った場合は保険適用外であることも影響しているでしょう。
また、とにかく乳がんの患者数が多くて「がんを切除する手術が3カ月待ち」などという状況もあるなか、時間のかかる再建術に手術室と時間を割けない、という医療機関も少なくありません。再建は再建を専門に行うクリニックへ、というのも自然な流れです。
過剰・過小診断を防ぐには?
医療保険もハードルに
乳がんの診断に欠かせない病理医について、回答医療機関の7割に常勤の認定病理医がいるというのは、思ったよりも多い印象です。とはいえ、乳がん、特に超早期の乳がんを診断するのは大変難しく、過剰診断・過小診断が懸念されます。急に病理医の数が増えたり、スキルが向上するわけでもないのですから、医師数が少ないなりの工夫が必要ですね。
病理診断に限らず、再建も放射線療法も、術後のリンパ浮腫対策も、院内にスタッフがいなければ他の医療機関との連携が大切。その連携の実態が分かるという点でも、今回の調査は患者さんの役に立つのでは?