被災地の福島県立医科大学には自衛隊(除染隊)の車両が常駐している。
患者さんの多くは、どのような銘柄の薬剤をどのような用法用量で投与されていたか、鮮明に記憶していない。そもそも、自分の医療の中身を詳しく知らない患者さんもいた。
懸念される緩和医療の中断
やもすれば、化学療法の中断よりも患者さんに直接的なダメージを与えるのではないか、と懸念しているのが緩和医療の中断だ。
疼痛緩和のために使用されるモルヒネの用量は個人差が大きい。必要量を下回れば、十分な疼痛除去ができず、反対に過量となれば1日中寝ている状態になる。時間をかけて患者一人ひとりに合致するように設定した用量が、被災に伴い“振り出し”に戻ってしまう可能性がある。
カルテが水没した、電子カルテのシステムが海水に洗われた、という現状は、まさに不測の事態。たまたま特別にバックアップを取ってあった場合を除き、情報を復旧させることは不可能だ。
今後、今回のような災禍を経ても医療の継続性を確保するためには、医療機関による医療記録のバックアップの確保に加え、患者一人ひとりが、自分が受けている医療の記録を、自ら記憶・保管しておくことも重要なのではないか。
今回の大震災は、診療記録を保存したICカードを患者自らが携行するシステムの構築を、本格的に検討すべきタイミングであることを示唆しているのかも知れない。