「特に、忘れてはならないのが、自覚症状がほとんどない骨粗鬆症や動脈硬化」(平沢氏)。動脈硬化が進行すれば、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などのリスクが高まる。骨粗鬆症も進行すれば骨折しやすくなる。高齢になると、骨折を契機に寝たきりになる患者も少なくない。
ホルモン補充療法の代わりに漢方療法を実施
そのため、同外来では、がんサバイバーにおける骨粗鬆症や動脈硬化を早期発見・治療することを目的に、「自覚症状のない患者さんにも年に1回程度の定期的な検査を勧めている」(牧田氏)という。既に症状のある患者に対しては、2~3カ月に1回程度の受診による経過観察と投薬などを行っている。
通常、閉経後の症状を緩和する治療法としてホルモン補充療法(HRT)が行われるが、乳がんや子宮体がんなどの既往のある患者に対しては、ホルモン補充療法はがんの再発リスクを高めるため原則行えない。そのため、同外来では、そのようながんサバイバーには漢方療法を実施しているという。
漢方療法としては、一般的に更年期障害の治療に用いられている当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸などの漢方薬を処方することが多いという。加えて、同外来では、慶応大の漢方医学センターに所属する医師の診察を受けることもできるほか、乳がんの既往がある患者については、同病院の乳腺外科と連携して定期的な乳がん検診が受けられる体制も整えているという。
適切な対策で重篤な病気は予防可能
慶応大病院のように、女性がんサバイバーの健康管理を積極的に行っている医療機関はまだ少ないのが現状だ。とはいえ、自分自身で早期閉経のリスクを認識し、早期閉経に起因する病気の予防や早期発見・早期治療に努めれば、脳卒中や心筋梗塞、大腿骨骨折などの重篤な病気を予防することは可能だ。
動脈硬化を予防するためには、適度な運動や健康的な食生活が効果的だ。定期的な健康診断を受けることで、脂質異常症を早期に発見することもできる。また、骨粗鬆症に関しては、適度な運動やカルシウム、ビタミンDの摂取は骨密度維持に効果的とのデータがある。牧田氏は、「骨密度測定が可能な医療機関は全国にあるので、そのような医療機関で骨密度を調べてもらうといい」と勧める。
多くのがん患者は、治療後10年が無事経過すれば、がんから“卒業”し、フォローアップもなくなる。特に早期に閉経を迎えた患者は、がんから卒業した後も骨粗鬆症や動脈硬化の予防・早期発見に目を向けてほしい。
表1 女性ホルモンの分泌低下に伴う主な症状 (慶応大病院女性健康維持外来による)
◆早発症状 |
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のぼせ、ほてり、冷え症、発汗異常、動悸、めまい、鬱状態、イライラ感、不眠、頭痛、手足のしびれ、蟻走感(蟻が這う感じがすること)など |
◆遅発症状 |
性交痛、萎縮性(老人性)膣炎、尿道炎、尿失禁、皮膚委縮、肥満、腰痛、肩こり、骨粗鬆症・骨量減少症、脂質異常症、動脈硬化症など |