閉経前の女性ががんを発症した場合、治療の一環として行われる卵巣摘出や薬の影響で、閉経が早まることがある。このように早期に人工的閉経が生じて体内の女性ホルモンが急激に減少すると、更年期症状だけでなく骨粗鬆症や、脂質異常症による動脈硬化などのリスクが高まることが明らかになっている。そのような患者は、日常生活でどのような点に注意すべきなのだろうか。
「がんなどの治療で、早期に人工的な閉経を迎えた患者さんは、同じ年齢の女性と比べて骨量が少ないことが明らかになっている。動脈硬化症にも要注意」と警鐘を鳴らすのは、慶応大病院産婦人科非常勤講師で、同病院婦人科女性健康維持外来の責任者を務める牧田和也氏。
同外来は、女性ホルモンの低下により生じる様々な症状の早期発見や治療を行うことを目的に20年前に設立された。5年ほど前から、がん治療の影響で人工的な閉経を迎えた“がんサバイバー”の健康管理にも力を入れてきた。そのため、過去5年間に同外来を受診した患者の半数以上が、がんサバイバーだという。治療の一環として卵巣摘出が標準的に行われる子宮体がんのサバイバーが特に多く、加えて、子宮頸がんや乳がん、卵巣がんのサバイバーが受診しているという。
若くして卵巣摘出の手術を受けた患者だけでなく、アントラサイクリン系などの抗がん剤や乳がん治療のためのホルモン剤投与を受けて30歳代から40歳前半で月経が止まり、そのまま閉経した患者なども治療の対象としている。
自然な閉経であっても、閉経前後には更年期症状や膣壁萎縮などの早発症状が生じ、また、閉経後10年程度経過すると骨粗鬆症や脂質異常症に起因する動脈硬化の発症リスクが高まることが知られている(図1)。同助教の平沢晃氏は、「月経が止まった年齢が若いほど、体内の女性ホルモン低下による健康障害が生じるリスクは高くなり、また、女性ホルモン低下を原因とする健康障害が生じる時期も早まる」と強調する。何らかの治療によって人工的な閉経を迎えた女性は、自然閉経を迎えた女性以上に注意が必要なのだ。
図1 閉経に伴う各種症状の発現時期