がん経験者や遺族の生々しい語りに死を深く意識する
授業の後半では、子宮頸がんの経験者である阿南里恵氏が、自らのがん体験を赤裸々に語った。阿南氏は23歳で子宮頸がんを発病し、告知を受けた。検査結果が出た瞬間、診察室の空気が一変したことで、自分ががんであることを悟り、医師に真実を話してほしいと求めた。だが、実際に告知を受けた後は「なぜ、私が…」と、苦しんだことを明かした。そして「死を意識したとき、みんなの記憶から消えていくことが怖かった」と、当時の心情を吐露した。
生徒たちが「がん告知」を自分の問題として捉えていることに、ゲスト講師、協力者らも手応えを感じた。写真左からCNJの柳澤昭浩氏、田原総一朗氏、代田昭久氏、川上祥子氏、阿南里恵氏。
阿南氏の語りを受け、田原氏も自身の告知体験を語った。田原氏の妻が患ったがんは、「炎症性乳がん」という、乳がんの中でも極めて悪性度が高く進行が早いがんだった。妻が気落ちすることを恐れた田原氏は、「乳がん」とだけ伝え、正確な診断名を告げなかったという。その後、真実を知った妻は「なぜ隠したのか。分かった時点で言ってほしい。死ぬ間際に本当のことを告げられたら、たまらない」と怒ったそうだ。
がん経験者や遺族の生々しい語りに生徒たちはじっと耳を傾け、特に死の問題について深く考えさせられたようだった。こうして死を深く意識した生徒たちの議論は「限られた時間の中で、どのように生きたいか」というテーマに移っていった。
「大人の意見に流されず、生徒たちは自分なりの意見をしっかり持てたと、授業に参加した教師らも評価していました」と校長の代田氏。
中学生でも十分にディスカッションできるテーマ
授業後、生徒たちは「これまであまり考えたことのないテーマで、意見を出すのが少し大変だったが、これから先のことを考えると、とてもためになる授業だった」「僕も少しだけ人の役に立ってみようと思った」「1日1日を大切に生きたい」「がんを経験した人の話を聞いて泣きそうになった。死ぬことはとても怖いが、楽しい思い出が1つでもあるなら、どんな病気になってもがんばれる」など、様々な感想を寄せた。
代田氏は「がん告知は非常に重い題材ですが、中学生でも十分にディスカッションできるテーマであると手応えを感じました。がん経験者や遺族の語りを真剣な表情で聞いていた生徒たちの姿も印象的でした」と振り返った。
今回の授業の手応えを受け、同校では1、2年生を対象とした「よのなか科NEXT」の授業でもがん告知をテーマに取り上げる予定だ。代田氏は、「よのなか科のこだわりとして“本物・一流の語り”を聞くことを大事にしているので、がん経験者を抜きにしたがん告知の授業はあり得ない」と話し、これからもがん経験者や遺族に協力を求めていきたいとしている。