早期乳がんの治療法を話し合うSt.Gallen国際会議(正式名称:Primary Therapy Breast Cancer 11th International Coference)が、3月11日~14日にスイスSt.Gallenで開催された。同会議の目玉は最終日に開催されるパネリスト41人の投票を基にした合意(コンセンサス)形成。この結果は、日本の乳がん診療にも大きく影響を与える。レポート2回目は、ホルモン療法に関する議論を報告する。
乳がん患者の過半数がホルモン感受性だ。ホルモン感受性の早期乳がんに関するホルモン療法の議論の焦点は、アロマターゼ阻害剤(AI剤)の位置づけ、タモキシフェンの利用法などであった。
まず、ホルモン感受性の乳がんに対する術後薬物療法の標準治療が確認された。その結果、閉経前の患者における標準治療は、タモキシフェン単独(賛成87%、反対10%)、タモキシフェンに卵巣抑制剤の併用(賛成87%、反対8%)となった。加えて、特例中の特例として卵巣抑制剤単独も標準治療となり得る(賛成79%、反対18%)とされた。
一方、閉経後のホルモン療法として、AI剤を標準治療の一つとする(賛成68%、反対33%)ことが賛成された。加えて、AI剤の投与を考えている場合には、最初からAI剤を投与する(69%)となり、数年のタモキシフェン投与後にAI剤に変更する(15%)という回答を大きく上回った。
これは、AI剤(レトロゾール)とタモキシフェンによる再発抑制効果を比較した臨床試験(BIG 1-98)の結果を受けたもの。同試験では、最初からAI剤の投与を受けた患者と、タモキシフェンの数年投与後にAI剤に変更した患者の再発率を比較した。その結果、わきの下のリンパ節転移陽性など、特に再発リスクが高い患者群で、AI剤の再発抑制効果が顕著なことが示されている。
ただし、タモキシフェン単独投与を受けるべき患者は存在するかとの設問に対しても、「存在する」(賛成73%、反対25%)という回答が7割を越えていた。
この点に関して、座長からコメントを求められた米国Emory University School of MedicineのWilliam C. Wood氏は、「前回のこの会議以降、AI剤が優れているというデータがさらに蓄積されている。ただし、患者のなかには再発リスクが非常に低くホルモン療法の重要性が低い患者も存在する。そのような患者に対しては、副作用の問題があるにも関わらず無理してAI剤を投与する必要はなく、タモキシフェン投与で十分と考えられる」とまとめた。
ただし、わきの下のリンパ節転移陽性やKi-67など生物学的な特徴からAI剤もしくはタモキシフェンの選択が可能かという設問に対しては、賛成56%、反対44%と意見は二分した。米国dana Farber Brigham and Women's Cancer CenterのEric Winer氏は「(AI剤とタモキシフェンの選択は)術後数年の再発リスクの高さによって決まるだろう」とコメント。ただし、再発リスクの指標となるような因子は、まだ確立していないようだ。
加えて、ホルモン感受性が高い患者で、かつ、Her-2陰性の場合には、化学療法は効きにくい(賛成87%、反対8%)ということが合意された。そして、そのような患者に対して、ホルモン療法に化学療法を追加することは有用性が低い(賛成90%、反対8%)となった。
AI剤の最適投与期間は結論出ず
一方、結論が出ない設問もあった。
「AI剤の最適な投与期間は5年間が最適か?」の質問に対して、賛成38%、反対23%、不明もしくは棄権が38%となり、意見が分かれた。これは、AI剤投与の効果を評価した、これまでの臨床試験における投与期間が最長で5年間であるためだ。そのため、AI剤の最適投与期間は、最低でも5年間ということが確認されたのみにとどまった。
「もしかしたら、より長い投与がより有効である可能性がある」との座長のコメントが示すように、AI剤の最適投与期間は、今後、更に延長される可能性が十分残っている。
タモキシフェンによる副作用は効果の指標になるか?
今回の会議では、薬物の代謝に関連する遺伝子に関する議論も行われた。これまでの研究で、薬剤の代謝に関連する遺伝子の1つCYP2D6にある変異(遺伝子多型)があると、タモキシフェンの代謝がうまくいかず、薬剤の効果が弱くなることが示されている。
ただし、閉経後の患者において、CYP2D6検査はアロマターゼ阻害剤もしくはタモキシフェンの選択に利用できるかという設問には否定的な回答が多かった(賛成32%、反対53%)。また、タモキシフェン投与を受ける患者は、CYP2D6の検査を受けるべきとする意見も少なかった(賛成26%、反対64%)。
また、これまでの研究で、タモキシフェンの副作用が強い患者では、再発リスクも下がる可能性が示唆されていた。これは、タモキシフェンにより体内の女性ホルモンの濃度が十分に下がることでがんの増殖抑制効果が高まるが、その一方でホルモンが不足することで種々の症状も出やすくなるためと考えられている。
そのため、今回の会議では、「タモキシフェンの副作用は効果の指標として利用できるか」という設問が出された。その結果、利用できる15%、できない67%と、否定的な意見が過半数を超えていた。「マーカーとして利用できるといえるほどのデータが集積していない」という判断が優勢であったためのようだ。
再発リスクが高いとされる、Her-2陽性の患者に対してAI剤を投与すべきかどうかも意見が分かれ(投与すべき46%、反対46%)、今後の検討課題となった。