通称ASCO(アスコ:American Society Clinical Oncology;米国臨床腫瘍学会)の年次総会には、医師、研究者、製薬企業関係者のみでなく、患者・支援団体(Patients Advocates)も全世界から多数集結する。前回までの記事では、米国の多くの患者会が、米国臨床腫瘍学会(ASCO)と強い連携関係にあり、より良いがん医療に向けて様々な点で協業している事を紹介した。レポートの3回目では、精力的な活動を行っている団体を幾つか紹介し、患者・支援団体と医療者の理想的な関係について考えてみたい。(NPO法人キャンサーネットジャパン 事業戦略部門・事務局長 柳澤 昭浩)
米国においても、多くの患者・支援団体は、がん経験者が主体となり、お互いを助ける目的で、様々なプログラムやサービスを提供している。
例えば、1991年に設立されたギルダズ・クラブ。このクラブは、1989年に卵巣がんで亡くなったコメディアンGilda Radner氏を記念して、同氏のご主人、友人などによって設立されたもの。現在、米国を中心に20以上のクラブ・ハウスを有し、がん患者、家族、友人らに対して様々なプログラムを提供している。
各地にあるギルダズ・クラブでは、無料で利用者に心地よい環境と、それぞれの地域に応じたサービスを提供している。サービスは、主として精神的サポートや患者同士のネットワーク作りなどを目的としたもの。いわゆるセルフヘルプグループ、あるいはピアサポートグループの役割を担っている。
セルフヘルプ、ピアサポートの活動が中心とはいえ、ギルダズ・クラブは医療者からも高い信頼を得ていた。肺がん内科領域の第一人者の一人であるフォックス・チェイスがんセンターのCorey J. Langer氏は、「ギルダズ・クラブのように信頼のおける団体とは積極的に協業している」と語っていた。
患者の権利を守るために
日本でも、最近のがん対策基本法成立に至るまでの経緯や、その後の政策提言などを見ていると、患者・支援団体が、がんに関する政策に大きく関与し、影響を与えるようになってきている。米国における患者・支援団体は、患者の権利を擁護する者、擁護する団体(Patient Advocates)としてのより長い歴史を持つ。特に大規模な患者・支援団体は、医療者に対しての教育プログラムの提供や資金援助、臨床試験の策定・審査への参加も行っている。
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看護師への臨床腫瘍学教育プログラムを担当しているKuenstler氏 |
Kuenstler氏が担当しているプログラムは、主に、M.D Anderson Cancer Centerの支援を受けて運営される非営利のもの。ただし、運営資金の一部は、米国を代表する患者・支援団体であるランス・アームストロング基金(Lance Armstrong Foundation)からも得ているという。同基金の年間予算は約30億円にものぼる大規模なもの。患者・家族のサポートのみならず、がんに関連する研究振興、また、医療者の教育プログラムにも資金援助している。これが米国の患者・支援団体の持つ“有形”の実力といえるだろう。
加えて、Kuenstler氏は、「がん看護は、がん患者さんのためのものであり、患者さんの声・視点無くして私たちのプログラムは意味がない。信頼できる患者・支援団体の存在はなくてはならない」と語る。プログラムの内容には、患者・支援団体の意見を色濃く反映させているという訳だ。こちらは、予算がない患者・支援団体も行うことができる“無形”の援助。“無形”とはいえ、医療者の信頼を得ることに成功している患者・支援団体の実力の現れといえそうだ。
ニッチなニーズにも対応する患者会
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HER2 Support Groupのブース風景 |
例えば、HER2 Support Group(右写真参照)。この団体は、全乳がん患者の15%程度存在すると言われるHER2たんぱく質が過剰発現している乳がん患者を対象として活動している。HER2の過剰発現は、一昔前までであれば、予後が悪いものとされていた。しかし近年、新しいカテゴリーの薬剤であるトラスツズマブ(商品名「ハーセプチン」)が登場し、適切な治療を受ければ、高い治療効果が期待できるようになっている。
同グループのスタッフは、「HER2たんぱく質が過剰発現している乳がん患者は比較的少なく、治療もその他の乳がん患者とは異なる事から、これらの患者向けには独自の情報が必要だ」と言う。
HER2 Support Groupの活動の中心は、HER2陽性の患者を対象に、インターネット上で様々な情報を提供するもの。同サイトでは、非常にきめ細かい医療情報が提供されており、治療薬、治療法、臨床試験などについても詳細に紹介されている。医療者にとっても参考になるほどの充実ぶりだ。
信頼される患者・支援団体の条件とは?
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ギルダズ・クラブのブースを訪問中の大沢かおり氏 |
米国の患者・支援団体は、積極的に各領域を代表する医療者との関係を構築し、様々な点で支援を受けている。米国で目立った活動をしている患者・支援団体には、アドバイザリーボード(顧問)として医療者が名を連ねていることが多い。ただし、活動内容を決める主導権は必ず患者側が持っている。これは日本の患者・支援団体が学ぶべき点ではないだろうか。
今回、ASCOの参加した、大沢かおり氏(右写真参照)が所属するVOL-Net、眞島喜幸氏が所属するPanCAN Japanなどは医療者の協力を得つつ、団体の運営の実権は患者側が有し、セルフヘルプやピアサポートのみならず、Patient Advocatesとしての活動を進めている。今後、自発的に活動する患者・支援団体が、国内でますます増加し、また規模も成長することで、患者の代弁者として医療者からより深い信頼を得られるようになることを期待したい。
【参考Webサイト】
・ギルダズ・クラブ(Gilda’s Club)・Nurse Oncology Education Program・HER2 Support Group・VOL-Netホームページ・PanCAN Japanホームページ