がん患者とその家族にとって、がん治療中の食事をどうするかは大きな関心事。がんナビでは、静岡がんセンターが発行した「がん患者さんと家族のための抗がん剤・放射線治療と食事のくふう」に紹介された10品の試食会を開催した。座談会には、2人のがん経験者とがん診療や栄養、患者相談の専門家に集まっていただいた。この連載2回目では、食事の話が家族との関係にまで広がった。
司会(がんナビより埴岡健一):残りの主食と主菜、副菜をまとめて試食していただきます。かに卵雑炊、ひじきの混ぜごはん、卵豆腐の冷やしあんかけ、いり豆腐、もやしとにんじんのごま酢あえ、小松菜と油揚げの煮浸しです。
樋口強氏:このかに雑炊は食べやすいですね。米が柔らかくて。米の粒が残っていないぐらいがいいですね。私は抗がん剤治療を受けたときに、30分おきに吐いていたんです。その状態が落ち着いて一番最初に食べたかったのは、雑炊でしたね。米のにおいがつらいので、梅干しを入れてにおいを消して食べました。
多和田奈津子氏:私も同感です。雑炊がおいしいです。噛まなくて食べられるのはいいですね。熱っぽいときにも、サラサラ、クタクタと食べやすいと思います。
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かに卵雑炊(左)と、ひじきの混ぜごはん |
吉田隆子氏:見栄えがあまりよくないのに、おいしいと言ってもらえてうれしいです(苦笑)。
多和田氏:(卵豆腐の冷やしあんかけを食べながら)――豆腐ではなく、卵豆腐を選ばれたのはなにか理由があるんですか?
吉田氏:特に大きな理由はないんですけど。どうしてですか?
多和田氏:私は治療中に舌に水ぶくれができてしまい、食べ物が染みやすかったんです。一番染みたのが、トマトでした。病院の食事としてトマトが出されて何気なく食べたらすごく染みてしまって。入院中、硬いものは食べられないので、母がいろいろ食べやすそうなものを買ってきてくれまして、プリンや豆腐などいろいろ食べ比べてみました。そうしたら、意外にも豆腐がすごく染みたんです。
一同:えー!?
多和田氏:今では、豆腐のなかのにがりが染みたのかと思っているのですけど。
山口建氏:それは塩気じゃないですかね。塩、醤油は染みるみたいですよ。(もやしとにんじんのごま酢あえを食べながら)――もやしはどうですか?噛まないと食べられないから、口の中が荒れているときは難しいのでは?
樋口氏:口内炎があるときは、難しいでしょうね。ただ、形のあるものを飲み込むことで、満足感と共に達成感が得られるんですよ。水では駄目です。私は口内炎があるときには、そうめんと共に、片栗粉で付けたあんかけを良く食べました。
稲野利美氏:口内炎がひどいときは水を飲むのも痛いと聞きますものね。形のあるものはとろみを付けたあんでくるみこむような状態にするのがいいようですね。
多和田氏:これ(もやしとにんじんのごま酢あえ)はあまり酢の味が強くなくていいですね。酢の味が強すぎるのはちょっと難しいと思います。
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卵豆腐の冷やしあんかけ(左)と、いり豆腐 |
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もやしとにんじんのごま酢あえ(左)と、小松菜と油揚げの煮浸し |
抗がん剤治療中の共通の副作用は便秘
樋口氏:(ひじきの混ぜごはんを食べながら)――ひじきはにおいが無くて、短く切ってあるし、ひっかかりにくくて食べやすいですね。食事中に申し訳ないけど、抗がん剤治療中の共通の副作用に便秘があるんですよ。あまり表には出ませんけどね。入院中、出たときはすごくうれしくて、その日一日が楽しかったですよ。
多和田氏:(樋口氏と顔を見合わせて)――分かります!
樋口氏:便秘は辛いけど、できることなら薬に頼らず食べ物で体に言うことを聞いてもらいたかった。ひじきとかゴボウとか、食物繊維を取る癖をつけると体が楽になりましたね。
山口氏:便秘には理由があります。食べる物の量が少ないと便が少なくなるでしょう。そうすると出づらくなるのです。また、水分が少なくても便秘になります。体には、口から固形物を食べると生じる排便反射というものがあります。この反射は、食後30分から1時間ぐらいにしか生じないのです。だから、タイミングがとても重要です。ちょっと工夫すれば出やすくもなります。
樋口氏:そういうことを指導してもらえると助かるんですけどねぇ。看護師さんは、回数チェックのみですから(笑)。
家族との関係、時期に合わせて見守ること背中を押すことが大事
司会:家族との関わりはどうですか?家族は、もっと食べて欲しいという思いがあるのですが、それが逆に重荷になるというのもあるのではないかと思いますが。
多和田氏:私が入院中、母がよくお弁当を作ってきてくれたのですが、「あなたは、ニンジンが苦手だからがんになったのよ。だから、ちゃんとニンジンを食べなさい」と言われたことがありました。ちょっとストレスを感じましたね(苦笑)。一方で、おいしい物もたくさん作ってくれましたし、家族の励ましは非常にありがたかったです。
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試食会の風景 |
石川睦弓氏:治療を受けていくなかで、栄養をとることは大切ですが、からだの状況や治療のスケジュールにあわせたメリハリもまた大切だと思います。治療で辛いときは食べられないのは仕方がありません。患者さんによくアドバイスするのですが、そういうときは「口に入るものは全て栄養」と思って、無理しなくてもそのとき食べられそうなもの、食べられるものを食べればよいと思います。
ただ、副作用がとれてくる時期に合わせて、少しずつ切り替えて「頑張って食べてみる」、「栄養バランスを考えて食べてみる」ことが重要です。ご家族も治療の影響が収まる時期をみて、背中を押してあげるといいと思います。吐き気や食欲不振などの抗がん剤の影響は、だいたい1週間ぐらいで収まってきます。
樋口氏:家族はがんになった本人以上に戦っているんだと思いますよ。家族の場合、何をやっても終わりがないでしょう。「一口でいいから食べさせてあげたい」と手間暇かけて作ってくれているのも、よく分かります。そういう意味でもね、レシピ本というのはいいですね。本だと食卓で家族と一緒に見られるでしょう。一緒に本を見ながら、次はこれが食べたいとかいう話ができると思うのです。
石川氏:書籍に加えてインターネット版も作成していますが、インターネット版は、症状にあわせて絞り込んで検索していったり、医療者が患者さんやご家族に情報提供する際にも印刷しやすい利点があります。本は本の利点がありますから、両方、必要なのかなと思っています。
稲野氏:食事に関する問い合わせは、患者さん本人以上にご家族の方からが多いです。家族は、何かできることをしたいという思いが強いのだと思います。ただ、家族がよかれと思ってやったことが患者さんの負担になることもあります。治療中で食べられない時期に栄養バランスを考えた食事を摂るというのは難しいのです。
また、食べられると言われたから作っても、食べられると言った次の瞬間に患者さんは食べたくなくなっていることも少なくないので、せっかく用意しても食べてもらえないというのは家族にとってはストレスでしょうし。
樋口氏:あとね、夫ががんになって食べられないと、罪の意識を持ってしまう奥さんもたくさんいると思います。食べられないのは自分のせいだと思って自分を責めるようなまじめな奥さんがね。本のメニューのなかから患者さん自身が食べたいものを選んで奥さんが作れば、食べられないのは本のレシピが悪い、食べられれば奥さんの腕が良いってことにもなるから(笑)、奥さんの精神的な負担を減らす効果もあると思いますよ。
(第3回に続く)
〔関連書籍〕
がん患者さんと家族のための『抗がん剤・放射線治療と食事のくふう』
山口建(静岡県立静岡がんセンター総長)監修 静岡県立静岡がんセンター・日本大学短期大学部食物栄養学科編
〔関連ウェブサイト〕
・SURVIVORSHIP.JP がんと向き合って
〔出席者〕(50音順)
石川睦弓氏(静岡がんセンター研究所患者・家族支援研究部)
稲野利美氏(静岡がんセンター栄養室長 管理栄養士)
多和田奈津子氏(サバイバー)
樋口強氏(サバイバー)
山口建氏(静岡がんセンター 総長)
吉田隆子氏(日本大学短期大学部食物栄養学科 教授)
〔協力〕(調理)
日本大学短期大学食物栄養学科 西島律子氏、小谷祐太朗氏、高橋千尋氏、森仁美氏、三島市保健センター管理栄養士 平澤佳代子氏、池谷広美氏
--- 朝早くから調理、また試食会終了後の片付けもご協力いただきました。ありがとうございました。---
〔協力〕(会場設営)
三島市役所健康増進課食育推進室
--- 室長の加藤健一氏の全面的なご協力に感謝いたします。---
■メニュー
主食:冷や汁うどん・かに卵雑炊・ひじきの混ぜごはん
主菜:卵豆腐の冷やしあんかけ・いり豆腐
副菜:もやしとにんじんのごま酢あえ・小松菜と油揚げの煮浸し
汁物:精進汁
デザート:ブルーベリーシェイク・オレンジくず湯
(2008年3月31日:三島市役所保健センターにて収録)