がん患者とその家族にとって、がん治療中の食事をどうするかは大きな関心事。がんナビでは、静岡がんセンターが発行した「がん患者さんと家族のための抗がん剤・放射線治療と食事のくふう」に紹介された10品の試食会を開催した。試食会には、2人のがん経験者とがん診療や栄養、患者相談の専門家に集まっていただいた。この様子を3回にわたってレポートする。
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樋口強氏(サバイバー) |
司会(がんナビから埴岡健一):今回はお集まりいただきましてありがとうございます。おいしそうないいにおいが漂ってきていますが、試食を始める前に、一言だけ自己紹介をお願いします。
樋口強氏:樋口です。12年前に小細胞肺がんを経験しました。抗がん剤治療の後遺症が今も残っていまして、全身がしびれています。そのため、塗り箸だとうまく食べられないんです。今日、テーブルに塗り箸が用意されているのをみて、正直、焦りました。割り箸があってよかったです。
多和田奈津子氏:多和田です。私は、16歳のときに甲状腺がん、25歳のときに悪性リンパ腫を経験しました。リンパ腫の治療では化学療法と放射線療法を受けました。鼻に放射線を受けたため嗅覚障害が残りまして、今、においがほとんど分からない状態です。
吉田隆子氏:日本大学短期大学部食物栄養学科におります吉田です。今回の本の編集を手伝ったのが、がん患者さんの食事について考えるきっかけでした。今回、料理を担当させていただきましたが、皆さんのお口に合うかどうか、ちょっと心配しております。ぜひ、素直なご感想をお話しいただいて勉強させていただければと思っています。
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多和田奈津子氏(サバイバー) |
稲野利美氏:静岡がんセンターの栄養士をしています稲野です。静岡がんセンターでは、患者さんからの食べられないという声を聞きながら、日々、試行錯誤しています。吉田先生からも紹介のあった書籍を出版しましたが、あの書籍は完成版というものではありません。皆さんの実際に利用した感想の声を聞いて改良版を作って行きたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いします。
石川睦弓氏:静岡がんセンターで患者家族支援に関する仕事をしています石川です。静岡がんセンターにくる前はがん専門病院で看護師として仕事をしていました。臨床にいた頃、治療中の患者さんの食に対する質問に決まりきったアドバイスしかできず、その点が課題として自分のなかに残っていました。実は、この書籍を出版する前に、この書籍の骨組みにもなった冊子の作成にも関わっていました。その冊子は全国の拠点病院に配布され、また患者さんやご家族など希望者に送付していました。その際、家でつくれるメニューがある点やレシピが多いのがうれしいというお礼のお手紙や電話もいただきました。
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山口建氏(静岡がんセンター総長) |
山口建氏:患者さんの食事については、一昔前まで「吐き気が収まったら食べてください」程度だったと思います。医師というものは、目の前にあるものを食べるという習性がありますから、これまで患者の食事についてあまり考えなかった。患者向けの食事に関する書籍は、非常に新しい試みだと思います。
天然だしvs.化学調味料
司会:さて料理ですが、最初は精進汁です。吉田先生が工夫して、天然だしと化学調味料を使った精進汁の2種類を作ってくださいました。どちらがいいか、皆さん、比較してみてください。
樋口氏:抗がん剤の投与を受けていたときは、とてもにおいに敏感でした。化学調味料の精進汁は、においが強いので抗がん剤投与中には手が出ないと思いますね。それに比べて、天然のだしは、においがほとんどなくていいですね。
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精進汁 |
稲野氏:うちの患者さんでも、化学調味料が少しでも入っていると食べられないという方がいます。口の中にくっつくような不自然な味が、気持ち悪いと思われるみたいですね。
樋口氏:抗がん剤で治療中というのは、体が薬品漬けにされていて、薬品に非常に敏感になっているように思います。あの頃は、薬品のにおいが本当に辛かった。例えば保存料のたくさん入った梅干しは舌にのせた途端にピリッときて分かりましたから。
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吉田隆子氏(日本大学短期大学部食物栄養学科教授) |
石川氏:治療が終わってからも、保存料が入っているかどうか分かりますか?
樋口氏:普通の生活に戻ると違いが分からなくなりますけどね、天然の素材のみを取り続ければ分かると思いますよ。犬とか猫とかが、食べられるかどうかを瞬時に見分けられるのと同じですよね。非常に感性が高まっているのが治療中だと思います。
司会:多和田さん、どうですか?
多和田氏:天然だしがすごくおいしいです。私は、においはわかりませんが、口の中でいろいろな味が広がる天然だしの汁物が好きです。好きですけど、だし取りは手間暇かかるので、日々、続ける自信は正直、ないです。
稲野氏:だしは、一度にまとめてつくって、製氷器などで凍らして保存するといいですよ。
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石川睦弓氏(静岡がんセンター研究所患者・家族支援研究部) |
石川氏:製氷器で凍らせるっていいアイデアですね。毎日のだし取りは作り手には負担かもしれません。私も、普段は化学調味料を使っていますし。ちょっとした工夫でうまくいくということは、皆さんに伝える必要がありますね。
司会:では、次に冷や汁うどんにいきましょう。
吉田氏:冷や汁うどんでは、2種類の麺を用意してみました。ゆでうどんと冷凍うどんです。粉末にした煮干しがありますので、お好みで加えて食べてください。
樋口氏:普通の人には、にぼしが入っていた方がいいのでしょうけど、治療中は無い方がいいでしょうね。においが鼻につきますから。“冷やし”というのはいいですね。においが無いですから、とても入りやすいです。入院中は、ラーメンとか暖かいうどんは一番食べられなかったですよ。においが強いでしょ。
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冷や汁うどん |
多和田氏:私もにぼしは無い方がいいと思います。ゴツゴツしたものが引っかかるかんじがしますから。ゆでうどんと冷凍うどんでは、冷凍の方がおいしいですね。でも、おいしいイコール食べやすいではないですから。ゆでうどんの方がスルッと入ってくるのがいいかもしれません。冷やしがいいのは、私も同感です。治療中は、猫舌状態でして、温かいものは全般的にやけどしてしまうんです。温かいものが食べたいけど、冷まさないと食べられないというかんじでした。
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稲野利美氏(静岡がんセンター栄養室長 管理栄養士) |
司会:口内炎があるときは、うどんの太さは食べづらくなかったですか?
樋口氏:口の中が一番ひどいときは、噛まない食べ物がよかったですね。噛むと痛いから、硬いものは駄目です。そういうとき一番よかったのは、そうめんでしたね。そうめんで、ずいぶんしのぎました。
石川氏:同じうどんでも、細いうどんがいいのでしょうね。稲庭風うどんとか。
稲野氏:麺が食べづらいときは、短く切るとか、あんとじにするとかね。
(第2回に続く)
〔関連書籍〕
がん患者さんと家族のための『抗がん剤・放射線治療と食事のくふう』
山口建(静岡県立静岡がんセンター総長)監修 静岡県立静岡がんセンター・日本大学短期大学部食物栄養学科編
〔関連ウェブサイト〕
・SURVIVORSHIP.JP がんと向き合って
〔出席者〕(50音順)
石川睦弓氏(静岡がんセンター研究所患者・家族支援研究部)
稲野利美氏(静岡がんセンター栄養室長 管理栄養士)
多和田奈津子氏(サバイバー)
樋口強氏(サバイバー)
山口建氏(静岡がんセンター 総長)
吉田隆子氏(日本大学短期大学部食物栄養学科 教授)
〔協力〕(調理)
日本大学短期大学食物栄養学科 西島律子氏、小谷祐太朗氏、高橋千尋氏、森仁美氏、三島市保健センター管理栄養士 平澤佳代子氏、池谷広美氏
--- 朝早くから調理、また試食会終了後の片付けもご協力いただきました。ありがとうございました。---
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〔協力〕(会場設営)
三島市役所健康増進課食育推進室
--- 室長の加藤健一氏の全面的なご協力に感謝いたします。---
■メニュー
主食:冷や汁うどん・かに卵雑炊・ひじきの混ぜごはん
主菜:卵豆腐の冷やしあんかけ・いり豆腐
副菜:もやしとにんじんのごま酢あえ・小松菜と油揚げの煮浸し
汁物:精進汁
デザート:ブルーベリーシェイク・オレンジくず湯
(2008年3月31日:三島市役所保健センターにて収録)