欧米諸国で承認されているが、日本では未承認の医薬品について、臨床上の必要性と使用の妥当性を検証し、治験の促進を図る未承認薬使用問題検討会議。2005年1月に第1回会議を開いてからこれまでに11回開催され、5つの抗がん剤の承認という結果を生んでいる。
厚生労働省は2005年に、未承認薬の治験を促進する仕組みとして未承認薬使用問題検討会議を立ち上げた。この時、欧米では標準的な薬とされているのに、日本で承認されていないために医療現場で使えない薬がかなりあるということが問題視されていた。この背景には日本における治験のスピードが遅いことや、市場規模が小さいなどの理由で企業が開発に積極的でないことがあった。
この会議では、まず欧米先進4カ国(米、英、独、仏)で新しく承認された薬剤のリストが報告される。さらに患者団体や学会から、早期に承認や開発をしてほしいという要望が出ている薬のリストも提出される。その上で、その薬の臨床上の意義などについて意見が交わされ、さらなる検討が必要との合意が得られた薬剤は、ワーキンググループが精査することになる。
がん、小児、循環器の3領域の専門家からなるワーキンググループは、外国の添付文書や学術論文などの資料を基に詳しく調べた結果を、次回の検討会議で報告する。その結果を受けて、検討会議が早期の承認や治験開始が必要と判断すれば、厚生労働省が製薬企業に申し入れを行う。場合によっては国内の開発企業を探すこともする。
今年1月22日に開催された第11回検討会議(ヒト化抗CD52モノクローナル抗体アレムツズマブ、滅菌タルクを検討)を含め、これまで審議されたがん関連医薬品の数は22剤となった。薬剤全体では35剤であるから、ほぼ3分の2をがん関連の製剤が占めていることになる。
前回までの検討会議で議論されたがん関連医薬品の現在の状況は別表の通り。未承認薬使用問題検討会議にとりあげられることが、実用化への近道になっていることがよくわかる。
1月4日に認可された悪性胸膜中皮腫治療薬ペメトレキセドが、この会議による承認の迅速化を示す良い例になる。ペメトレキセドは2005年1月の検討会議の時点では治験開始前だったが、2005年2月にフェーズ1試験が開始され、2005年10月にはフェーズ2試験開始、2006年6月26日に承認申請され、2007年1月4日に製造販売承認と、2年足らずで治験から承認までのステップをクリアした。
そのほかにも、検討会発足以来の2年間で、オキサリプラチン、ボルテゾミブ、テモゾロミド、リポソーマルドキソルビシンと、抗がん剤4剤が承認へとこぎつけた。さらに承認申請中の薬剤には、期待の分子標的薬であるベバシズマブ、エルロチニブ、イブリツモマブ、スニチニブ、ソラフェニブなどがある。
ただし、治験が促進されているとはいうものの、まだまだ審査に時間がかかっていると懸念する声があるのも事実。必要な薬は6カ月で審査結果を出す、米国並みの迅速審査を確立することがわが国の大きな課題だろう。
検討会議開催日 | 成分名 | 対象疾病 | 検討会議での主な検討結果 | 検討当時の状況 | 現在の状況等 | 企業名 |
第1回 (2005年1月) | オキサリプラチン | 結腸・直腸がん | 承認までの間に安全性確認試験を実施すべき | 承認審査中 | 2005年3月18日承認、4月6日薬価 | ヤクルト 本社 |
第1回 (2005年1月) | ペメトレキセド | 悪性胸膜中皮腫 | 早期に治験が開始されるべき | 国内治験前 | 007年1月4日承認、1月19日薬価収載 | 日本イーライリリー |
第1回 (2005年1月) | サリドマイド | 多発性骨髄腫 | 早期に治験が開始されるべき | 国内治験前 | 承認審査中 | 藤本製薬 |
第4回 (2005年4月) | ボルテゾミブ | 多発性骨髄腫 | 早期に承認申請が行われるべき、承認までの間に安全性確認試験を実施すべき | 国内治験中 | 2006年10月20日承認、12月1日薬価収載 | ヤンセンファーマ |
第5回 (2005年7月) | ベバシズマブ | 転移性結腸・直腸がん | 欧米臨床データ及び国内第I相試験データ等を基に早期に承認申請が行われるべき。申請準備期間中及び審査期間中に安全性確認試験が実施されるべき | 国内治験中 | 承認審査中、 安全性確認試験実施中 | 中外製薬 |
第5回 (2005年7月) | セツキシマブ | 転移性結腸・直腸がん | 併用療法による第II相試験が早期に開始されるべき | 国内治験中 | 承認申請準備中 | メルク、ブリストル・マイヤーズ |
第5回 (2005年7月) | エルロチニブ | 非小細胞肺がん | 進行中の治験状況を注視していくべき | 国内治験中 | 承認審査中 | 中外製薬 |
第5回 (2005年7月) | テモゾロミド | 悪性神経膠腫 | 国内試験データ(退形成性星細胞腫)及び海外臨床データ(膠芽腫)等を基に早期に承認申請が行われるべき。審査期間中に安全性確認試験(膠芽腫:放射線との併用が実施されるべき) | 国内治験終了 | 2006年7月26日承認、9月15日薬価収載 | シェリング・ブラウ |
第5回 (2005年7月) | ストレプトゾシン | 膵島細胞がん | 早期に治験が開始されるべき | 国内治験前 | 治験開始の検討要請中 | (調整中) |
第6回 (2005年10月) | イブリツモマブ チウキセタン | B細胞性非ホジキンリンパ腫 | 早期に承認申請が行われるべき | 国内治験終了 | 承認申請中 | 日本シエーリング |
第6回 (2005年10月) | リポソーマルドキソルビシン | 卵巣がん、AIDS関連カポジ肉腫 | 早期に承認申請が行われるべき | 国内治験中 | 2007年1月4日承認、1月19日薬価収載(AIDS関連カポジ肉腫) | ヤンセンファーマ |
第6回 (2005年10月) | クロファラビン | 小児急性リンパ性白血病 | 早期に治験が開始されるべき | 国内治験前 | 治験開始の検討要請中 | バイオエンビジョン ジャパン |
第7回 (2006年1月) | ネララビン | T細胞性急性リンパ芽球性白血病 T細胞性リンパ芽球性リンパ腫 | 早期に治験が開始されるべき | 国内治験前 | 承認申請中、 安全性確認試験実施中 | グラクソ・スミスクライン |
第7回 (2006年1月) | ペグアスパラガーゼ | L-アスパラギナーゼに過敏症の急性リンパ性白血病 | 早期に治験が開始されるべき | 国内治験前 | 治験開始の検討要請中 | (調整中) |
第8回 (2006年4月) | レナリドミド | 骨髄異形成症候群による貧血 | 早期に治験が開始されるべき。その際には、妊婦・妊娠可能な女性には使用されないようにするなど十分に留意すべき | 国内治験前 | 治験準備中 | セルジーン |
第9回 (2006年7月) | スニチニブ | 消化管間質腫瘍(イマチニブ耐性)、進行性腎細胞がん | 欧米臨床データ及び国内第II相試験データ等を基に早期に承認申請が行われるべき | 国内治験中 | 承認審査中 | ファイザー |
第9回 (2006年7月) | ソラフェニブ | 進行性腎細胞がん | 迅速な審査が望まれる | 承認審査中 | 承認審査中 | バイエル薬品 |
第9回 (2006年7月) | デフェラシロックス | 輸血による慢性鉄過剰 | 外国臨床データの活用も考慮した上で、早期に承認申請が行われるべき | 国内治験中 | 治験実施中 | ノバルティスファーマ |
第10回 (2006年10月) | デシタビン | 骨髄異形成症候群 | 早期に治験が開始されるべき | 国内治験前 | 治験開始の検討要請中 | ヤンセンファーマ |
第10回 (2006年10月) | ダサチニブ | 成人慢性骨髄性白血病、成人急性リンパ性白血病 | 外国臨床データ及び国内第I/II相試験データ等を基に早期に承認申請が行われるべき | 国内治験中 | 治験実施中 | ブリストル・マイヤーズ |
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