「ホスピスと呼ばれる施設での終末期ケア」との印象が強い緩和ケア。だが最近、治療早期から、さらには在宅でも切れ目なくケアを提供しようというのが、世界的な流れになっている。このトレンドをお伝えするシリーズの2回目は、ケアを提供するシステムのありかたを、英国とドイツの現状から探ってみる。
英国ホスピス事情
---症状コントロールの場として在宅緩和ケアをサポート---
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セントクリストファーホスピス |
1967年に近代ホスピスの第1号として設立されたセントクリストファーホスピス。今でも48ベッドを有し540人の在宅患者を抱える英国最大規模のホスピスとして、ロンドン市南東部のケアの中核を担っている。
患者の大半は癌で、平均入院期間は14日と日本に比べて非常に短い。在宅療養中の患者が症状緩和などを理由に一時的に入院するケースが全入院患者の4割を占めているためで、あくまで緩和ケアの中心は在宅であることがうかがえる。
在宅緩和ケアをサポートするために、どのホスピスにも併設されているのがデイホスピス。作業療法やマッサージ、同じ疾患を抱える患者との関わりなど多彩なプログラムを通じ、孤立しがちな在宅患者のQOL向上に貢献している。
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デイホスピスで作品作りを楽しむ癌患者 |
英国では1990年以降、在宅緩和ケアの支援体制が急速に整えられた。中でも、地域で緩和ケアチームや疼痛緩和専門の看護師の支援が受けられるなど、患者の主治医である開業医のサポート体制が充実している点は大きい。また、緩和ケアの対象を癌患者以外にも広げていこうというのも、最近の流れだ。
もっとも、英国のホスピスは歴史的にその運営費の多くが寄付で賄われており、公的保険給付を前提とせざるを得ない日本とは事情が大きく異なっている点も考慮しなければならない。
ドイツホスピス事情
---「在宅」の一部として機能する看取りの場---
ベルリン南西部の閑静な住宅地に建つホスピスショーネベルグ-シュテーグリッツ。社会福祉NPO団体が運営する16ベッドを持つホスピスだ。
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ホスピスショーネベルグ-シュテーグリッツ |
ドイツでは病院付属の緩和ケア病棟と、こうした独立型ホスピスの役割が大きく異なるのが特徴だ。前者が疼痛などの症状コントロールを目的としているのに対し、後者は、ドイツの制度では自宅療養が難しい患者にとっての「在宅」の扱いだ。
ホスピス入所者の多くは癌患者で、平均在院日数は30日前後。大半はホスピスで最期を迎える。施設の設備は英国ホスピスのそれと大差ないが、常駐医師はおらず、地域の開業医が定期的に往診するのみだ。
1990年代初めまで、ベルリンでは日本同様、癌患者の8割が終末期に病院に運ばれ最期を迎えるという状況だった。そこで、在宅緩和ケア推進のため、1994年に「ホームケアプロジェクト」を立ち上げ、制度改正や在宅専門医の養成、ホスピスの整備が進み、結果、病院で死亡する患者を20%にまで減らした。
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ホスピスのケア担当医で在宅専門医のリーガー・アヒム氏 |
ホスピスのケア担当医で在宅専門医のリーガー・アヒム氏は、「今は在宅専門医が中心となって在宅緩和ケアを展開している段階。一般開業医を巻き込んだ取り組みは今後の課題だ」と話す。介護系施設で緩和ケアに取り組んでいる点も含め、ドイツの今後の動向は参考になりそうだ。
次回は、日本における在宅緩和ケア支援センターの先駆けとなった広島県緩和ケアセンターを紹介する。
(井田 恭子)
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