がんの予防には食事に気をつけ、運動をする――。「定説」のように思ってきたことが、実はエビデンスに欠ける「仮説」にすぎなかったのかもしれない。 Journal of National Cancer Institute誌7月19日号に発表された2本の論文は、がんにおける食生活の重要性に疑問を投げかける結果を示した。
論文の1つは、がんと食生活の関連性をみた59の試験に対するメタアナリシス研究。ビタミンや食物繊維の摂取など健康的な食生活が、がん患者の死亡率や再発率に有効であるかどうかを調べた結果、食生活の有用性を証明できなかったというものだ。
もう1つは、胃がん予防におけるH.ピロリ菌の除菌とビタミン、ニンニクの効果を比較した無作為化二重盲検試験。がん予防の効果が高いといわれるビタミン Cやセレニウムを含むサプリメントを7年以上にわたり服用したが、有効性は示されず、2週間の薬物投与による除菌の方が胃がんの発症をおさえた。またニンニクエキスも同様に、長期間の服用は胃がんを予防するとはいえない結果となった。
食生活の是正が生存を延長させるエビデンスはない
1つめのメタアナリシス研究は、英国Bristol大学のAnna A. Davies氏ら研究グループが発表した。Cochrane Libraryなど4つのデータベースを使い、がんや前がん病変(preinvasive lesions)の患者を対象とした無作為化試験で、サプリメントも含めた食事介入が、死亡率や再発率などに与える影響を調べた研究を抽出した。化学療法や放射線療法を併用した試験は除外した。
これらの条件のもと選択されたのは、がん患者を対象にした25の試験と、前がん病変の患者を対象にした34の試験。このうち、がん種が特定されていたのは、前者では皮膚がん(4試験)、乳がん(4試験)、膀胱がん(3試験)などを含む18試験、後者では大腸がん(19試験)を含む全34試験だった。
メタ分析の結果、がん患者を対象にした試験において、全死亡に対する「健康的な生活」(食事介入や体重の減量、運動を含む7試験)のオッズ比は0.9(95%信頼区間 0.46-1.77)であり、βカロチンやビタミンCなどの抗酸化物質(7試験)も、レチノール(4試験)も死亡率を改善する結果は得られなかった。再発に関しても同様の結果だった。さらに前がん病変の患者を対象にした試験においても、前がん病変からがんへの進行、前がん病変の再発に対し、食事介入の有用性は示されなかった。
このため研究グループは「がん患者における食生活の是正が、生存を延長し予後を改善するというエビデンスはない」と結論づけた。その理由の1つとして、分析の対象とした試験の多くが、患者の割りつけや盲検化に問題があり、「試験の質が低かった」ことにあるという。そして「エビデンスが集まるまでは、医師は患者に健康的な食事を摂るよう勧めるべきではあるが、健康的な食生活ががん自体を管理する上で最重要であると言ってはいけない」と述べている。
胃がん予防にビタミンとニンニクは有用性なし
2つめの研究は、中国北京大学のWei-cheng You氏と米国がん研究所のMitchell H. Gail氏らが行った無作為化試験。対象は中国山東省中部の一地域に住む35~64歳の3365人。
このうちH.ピロリ菌陽性者(2258人)は、アモキシシリンとオメプラゾール、あるいはプラセボの投与を2週間、その後、ビタミンC(250mg)、ビタミンE(100IU)、セレニウム(37.5μg)を含むサプリメントとニンニクエキス、あるいはプラセボの服用を7.3年間続けた。一方、H.ピロリ菌陰性者(1107人)は、ビタミンのサプリメントとニンニク、あるいはプラセボの服用のみを7.3年間行った。
試験は1995年に開始し、1999年と2003年に胃の生検を行った。その結果、除菌治療では重度な慢性萎縮性胃炎や腸上皮化生、異形成、あるいは胃がんの発症は有意に低下し、1999年の時点でのオッズ比は0.77(95%信頼区間 0.62-0.95)、2003年では0.60(同0.47-0.75)と減少した。また2003年における胃がんの発症率は除菌治療群では1.7%で、プラセボ群の2.4%に比べて低かった。
ところが、ビタミンやニンニクを服用した場合は、こうした良好な結果は得られず、胃がんに対するハザード比はビタミン服用で1.03(95%信頼区間 0.61-1.73, P=0.91)、ニンニクは1.06(同 0.63-1.78, P=0.84)だった。このため「ビタミンやニンニクの長期服用は前がん病変や胃がんの発症予防に有効ではない」と研究グループは結論づけた。