信州大学医学部附属病院は5月9日、HER2陽性の再発・進行骨・軟部肉腫と婦人科悪性腫瘍を対象に、非ウイルス遺伝子改変HER2標的CAR-T細胞(BP2301)の医師主導治験を開始すると発表した。2022年5月6日に治験届が受理された。安全性の評価を目的としたフェーズ1試験で、信州大学医学部附属病院で行われる。治験製品の製造も同病院で実施する予定。
開始されるフェーズ1試験は、信州大学医学部教授の中沢洋三氏と学術研究・産学官連携推進機構遺伝子・細胞治療センター教授の柳生茂希氏らが2019年からブライトパス・バイオと共同で開発してきた、HER2標的CAR-T細胞を用いて行われる。非ウイルスベクターを用いた、効率的・安価・安全なCAR-T細胞の製法であるpiggyBac 法を用いてGM-CSF受容体を標的としたCAR-T細胞を作成し、CD116陽性骨髄系腫瘍(急性骨髄性白血病と若年性骨髄単球性白血病)を対象とした医師主導治験を開始したことを2021年3月に発表していた。
中沢氏、柳生氏とブライトパス・バイオは、piggyBac 遺伝子改変HER2 CAR-T細胞の研究・開発に2019年に着手し、piggyBac 遺伝子改変法と効果的な培養法(特許出願中)を組み合わせた、独自のHER2 CAR-T細胞(BP2301)の作製に成功した。研究グループのCAR-T細胞は、分化早期の増殖能が高く、免疫疲弊が生じていない幹細胞様メモリーT細胞が多く含まれ、効果の持続性に優れ、固形腫瘍にも有効であるという。
開始するフェーズ1試験は、標準治療に不応・不耐もしくは再発または進行HER2陽性骨・軟部肉腫および婦人科悪性腫瘍患者を対象に行う。5歳から65歳の信州大学病院におけるHER2検査(免疫組織化学染色法)でスコア1+以上の患者で、骨肉腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、滑膜肉腫などの骨・軟部肉腫、子宮体癌(子宮内膜癌・子宮肉腫)、子宮頸癌、卵巣癌、外陰癌・膣癌などの婦人科悪性腫瘍の患者が対象になる。予定試験期間は3年(2022年5月から2025年4月)で、単施設、非盲検、用量漸増として行われる。第1用量(8.3×105/kg)と第2用量(2.7×106/kg)で、各6人ずつ投与が行われる予定。
主要評価項目は、各用量における用量制限毒性(DLT)発現割合、副次評価項目は有害事象の発生状況、CAR-T細胞療法の抗腫瘍効果。