活動性の脳転移を有する既治療のHER2陽性進行乳癌に対し、抗HER2抗体薬物複合体トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は脳転移にも有効である可能性が明らかとなった。前向き単群フェーズ2試験であるTUXEDO-1試験で、73.3%と高い頭蓋内奏効率が示された。5月3日から5日までドイツベルリンとハイブリッドで開催されているESMO Breast Cancer(ESMO Breast 2022)で、オーストリアMedical University of ViennaのR. Bartsch氏が発表した。
活動性の脳転移があるHER2陽性乳癌患者については、HER2-Climb試験でtucatinibとトラスツズマブ、カペシタビンの併用で頭蓋内奏効率が47.3%、無増悪生存期間(PFS)中央値が9.6カ月、全生存効期間(OS)中央値が21.4カ月だったことが報告されている。TUXEDO-1試験の結果は、T-DXdの方がより有効な可能性を示したことになる。
TUXEDO-1試験は、成人でトラスツズマブとペルツズマブの投与を受けたことがあるHER2陽性乳癌で未治療の脳転移があると新規に診断された患者か、局所治療後に増悪した脳転移を有し迅速な局所療法の適応がない患者を対象に行われた。T-DM1の投与歴があっても参加が可能だった。患者には3週おきにT-DXd 5.4mg/kgが投与された。
主要評価項目は、脳腫瘍の効果指標であるResponse Assessment in Neuro-Oncology (RANO)-BM criteriaを用いた中央判定による頭蓋内奏効率。副次評価項目は、臨床的有用率、頭蓋外の奏効率、PFS、OS、安全性、QOLなどだった。Simonの2段階デザインに基づいて、臨床的意義のある反応率の閾値として60%、臨床的意義のない反応率の閾値を26%として15人が登録された。少なくとも7人で奏効が認められれば有効と判定されることになっていた。
15人全員が少なくとも1回のT-DXdの投与を受けた。ベースラインで神経症状があったのは40%。60%が局所療法後に脳転移が増悪した患者で、60%がT-DM1の投与を受けていた。T-DXd投与前の転移乳癌に対する前治療数中央値は2(1-5)だった。
試験の結果、ITTにおける頭蓋内奏効率は73.3%(15人中11人)で、1人は脳実質内に転移を有する患者とされていたが、硬膜の転移と判明したため解析から除いたper protocol解析では78.6%(14人中11人)だった。全員で腫瘍の縮小が認められていた。観察期間中央値11カ月(3-17)で、PFS中央値は14カ月(95%信頼区間:11.0-NR)だった。臨床有用率はITTで86.7%。OS中央値は未到達。ベースラインで測定可能な頭蓋外病変があった8人中5人(62.5%)で奏効が認められた。
安全性に関する新たな問題点は認められなかった。主な非血液学的毒性は、グレード1/2の倦怠感(66.7%)、吐き気(46.7%)などだった。4人で重篤な副作用が発現した。グレード2の間質性肺炎とグレード3の心室駆出率の低下が1人ずつに起きた。
QOLは治療期間を通じて維持されていた。