中部下部直腸癌に対するロボット支援下手術は、手術創を縮小し、腫瘍学的な根治性を改善、術後の回復を促進し、術後合併症を減らすことが、中国で行われた多施設共同のランダム化比較試験の短期成績から示された。同試験の主要評価項目である3年時の局所再発率は、2023年末に明らかになる予定である。今回は短期成績が発表された。1月20日から22日に米サンフランシスコとハイブリッド形式で開催されたGastrointestinal Cancers Symposium(ASCO GI 2022)で、中国Zhongshan Hospital Fudan UniversityのJianmin Xu氏が発表した。
直腸癌に対する低侵襲手術は、いまだ議論が続いている。腹腔鏡手術は、開腹手術と長期の腫瘍学転帰は同様で、病理学的な根治性(pathological radicality)の結論は得られていない。またロボット支援下手術は、ロボットが持つ利点から、手術の成績の改善、剥離断端の陽性率の低さが期待されているが、長期の腫瘍学的転帰に関する説得力のあるエビデンスは十分ではない。
Xu氏らは、中部および下部の直腸癌患者を対象とする多施設共同、非盲検、優越性を評価する前向きのランダム化比較試験を行い、ロボット支援下手術と従来の腹腔鏡手術の手術成績と長期の腫瘍学的転帰を比較した。
試験には、中国の8つの省から11の施設が参加した。対象は、中部直腸癌(肛門縁から>7cm-12cm)、または下部直腸癌(肛門縁から0-7cm)の腺癌で、周術期の放射線療法または化学放射線療法の後で、cT1-T3、N0-1またはycT1-T3 Nx、遠隔転移のエビデンスを認めない患者とした。ロボット支援下手術を行う群(ロボット支援下手術群)、または従来の腹腔鏡手術を行う群(腹腔鏡手術群)に、患者を1対1でランダムに割り付けた。
主要評価項目は3年時の局所再発率で、術後は補助療法を行い、3年間追跡し、結果は2023年末までに得られる予定である。今回発表されたのは短期の評価項目(副次的評価項目)で、手術成績、病理学的な根治性、術後の回復とし、mITT解析を用いて比較した。
2016年7月から2020年12月までに1240人が登録された。このうちmITT解析対象となったのは1180人で、最終的にロボット支援下手術群は591人、腹腔鏡手術群は589人となった。両群の患者背景はバランスがとれていた。中部直腸癌は、ロボット支援下手術群161人、腹腔鏡手術群163人、下部直腸癌はそれぞれ430人、426人だった。
肛門括約筋を温存する低位前方切除術は、ロボット支援下手術群で83.1%に行われ、腹腔鏡手術群の76.9%よりも有意に多かった(p=0.008)。
肉眼的完全切除は、ロボット支援下手術群では95.4%、腹腔鏡手術群では91.9%に行われ、ロボット支援下手術群で有意に多かった(p=0.012)。ロボット支援下手術群では直腸間膜の統合性が良好で、環状側切除断端の陽性率は4.0%で、腹腔鏡手術群の7.1%と比べて低かった(p=0.023)。郭清したリンパ節の数は、ロボット支援下手術で15.0個、腹腔鏡手術では14.0個となった(p=0.004)。
開腹手術に移行した割合は、ロボット支援下手術群で1.7%、腹腔鏡手術群で3.9%となり、ロボット支援下手術群で有意に低かった(p=0.021)。出血量の中央値は、ロボット支援下手術群で40.0mL、腹腔鏡手術群で50.0mL(p<0.001)、術中合併症はそれぞれ5.4%、8.7%(p=0.029)だった。30日の術後合併症(Clavien-Dindo分類のGrade II以上)はそれぞれ16.1%、22.9%に発生した(p=0.003)。
ロボット支援下手術群では、これらの結果が術後の良好な回復につながり、術後の入院期間の中央値は7.0日で、腹腔鏡手術群の8.0日よりも短縮していた(p<0.001)。術後30日の死亡率は両群で同様だった(0.2% vs 0.2%、p>0.999)。