術前内分泌療法を受けたエストロゲン受容体(ER)陽性で臨床的にリンパ節転移がない原発性乳癌において、術後内分泌療法に化学療法を追加しても有意な予後改善は認められないことが、無作為化フェーズ3試験のNEOS試験の主要解析の結果で明らかになった。
12月7日から10日までハイブリッド形式で開催されたSan Antonio Breast Cancer Symposium(SABCS 2021)で、愛知県がんセンター乳腺科部の岩田広治氏が発表した。
試験にはER陽性HER2陰性、T1c-T2、臨床的にリンパ節転移がなく(N0)、76歳未満の閉経後乳癌患者が登録された。登録後、術前補助療法としてレトロゾール治療を24-28週受けた。術前補助療法中に病勢進行(PD)となった患者や手術後の病理所見でリンパ節転移が4個以上認められた患者は除外され、術前または術後に担当医師の判断で全身療法が行われた。
適格基準を満たした患者は、術後補助療法として化学療法後に4.5-5年間のレトロゾール治療を行う群と、化学療法を行わずに4.5-5年間のレトロゾール治療を行う群に1:1で無作為に割り付けられた。
主要評価項目は、術後化学療法の有無にかかわらず、無病生存期間(DFS)で、副次評価項目は、無遠隔転移生存期間(DDFS)、全生存期間(OS)、術前内分泌療法の臨床効果に応じたDFS、DDFS、OS、およびQOLだった。
2008年5月から2013年6月に日本の100施設から904人が登録された。術前内分泌療法を882人が受け、PDは42人だった。無作為化割付されたのは669人で、術後補助療法として、化学療法+内分泌療法群(333人)と内分泌療法単独群(336人)に分けられた。
患者背景は2群でバランスが取れていた。cT1cが化学療法+内分泌療法群41%、内分泌療法単独群38%、cT2が59%と62%、組織学的グレード1が2群とも29%、グレード2が化学療法+内分泌療法群68%、内分泌療法単独群67%、グレード3は2群とも3%、核グレード1が68%と67%、核グレード2が25%と23%、核グレード3が7%と10%だった。Ki67が20%以上の患者が2群とも40%を占めた。
また術前内分泌療法で完全奏効(CR)は化学療法+内分泌療法群2%、内分泌療法単独群1%、部分奏効(PR)が57%と58%、病勢安定(SD)が2群とも40%だった。乳房温存術が施行されたのは86%と84%、腋窩リンパ節郭清は19%と20%、リンパ節転移数は0個が83%と82%、1個が2群とも14%、2個が2%と4%、3個が0.3%と1%だった。
観察期間の中央値は7.8年だった。DFSハザード比は0.742(95%信頼区間:0.505-1.088)、p=0.1262で、有意な差は認められなかった。8年時点のDFS率は、化学療法+内分泌療法群85.6%、内分泌療法単独群82.7%となった。
DFSイベントが化学療法+内分泌療法群47人、内分泌療法単独群70人で、計画よりも少なかったため、化学療法の必要性を評価することはできなかったとしている。
DDFSハザード比は0.791(95%信頼区間:0.463-1.350)、p=0.3894だった。8年時点のDDFS率は、化学療法+内分泌療法群93.1%、内分泌療法単独群91.7%だった。
OSも2群間で差がなかった。OSハザード比は0.464(95%信頼区間:0.201-1.071)、p=0.0721だった。8年OS率は、化学療法+内分泌療法群97.8%、内分泌療法単独群94.8%だった。
DDFSイベントは、化学療法+内分泌療法群が14人、内分泌療法単独群が19人だった。二次癌は2群ともDDFSイベントより多く、26人と24人だった。
DFSサブグループ解析で、化学療法+内分泌療法群のほうが統計学的に良好だったのは、60歳未満、cT2、Ki67が20%以上の場合だった。
また術前内分泌療法の効果別のDFSも、2群間で統計学的に有意な差はなかった。CR+PRの患者ではハザード比0.75、p=0.28、SDの患者ではハザード比0.74、p=0.29だった。PgRの状態、グレード、リンパ節転移数も、化学療法+内分泌療法群と内分泌療法単独群のDFSの違いを予測する因子ではなかった。
以上の結果から、術前内分泌療法はルミナール、臨床的リンパ節転移陰性の閉経後乳癌患者において標準治療として考えられるとした。また術後化学療法の使用は、術前内分泌療法の臨床的効果のみに基づいて決定されるべきではないとした。ER陽性原発性乳癌では、術前内分泌療法の反応にかかわらず、臨床的な因子や(複数の遺伝子から再発リスクを予測するような)ゲノムツールによって術後化学療法は選択されるべきであるとまとめた。