KRAS G12C変異を有する既治療の進行非小細胞肺癌(NSCLC)に対して、経口KRAS G12C阻害薬であるadagrasib(MRTX849)が有効である可能性が明らかとなった。進行固形癌を対象に行われている多コホートフェーズ1/2試験であるKRYSTAL-1試験(NCT03785249)の参加者のうち、化学療法と抗PD-1(L1)抗体による治療を受けたKRAS G12C変異を有するNSCLCの患者における評価で、忍容性が認められ、良好な抗腫瘍効果が確認された。
3月25日から27日に開催されているEuropean Lung Cancer Virtual Congress(ELCC 2021 Virtual)で、米Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのGregory Riely氏が発表した。
adagrasibは、KRAS G12C変異に選択的で不可逆的に共有結合し、不活化状態にする薬剤。
KRYSTAL-1試験は、KRAS G12C変異陽性の固形癌を対象とし、NSCLCの場合は化学療法と抗PD-1(L1)抗体による治療を受けた患者が対象となっていた。用量漸増のフェーズ1と拡大コホートのフェーズ1b、癌種ごとに単剤での効果を評価するフェーズ2から構成されていた。今回発表されたのは、adagrasibを1日2回600mg投与されたフェーズ1/1bのNSCLC患者18人(観察期間中央値9.6カ月)とフェーズ2の61人の結果で、両方合わせた79人の観察期間中央値は3.6カ月だった。フェーズ1の主要評価項目は安全性、最大耐量の同定、薬物動態、フェーズ2推奨用量の決定、フェーズ2の主要評価項目はRECISTv1.1に基づく奏効率だった。
試験のデータカットオフは2020年8月30日。抗腫瘍評価が可能だったフェーズ1/1bの14人における奏効率は43%で全て部分奏効だった。病勢コントロール率は100%だった。フェーズ1/1bとフェーズ2を合わせた51人の奏効率は45%で全て部分奏効で、病勢コントロール率は96%。ほとんどの患者で腫瘍の縮小が認められた。フェーズ1/1bの14人における治療期間中央値は8.2カ月(1.4-13.1+)で、部分奏効が得られた6人中5人で投薬が継続されており、4人は11カ月超の投薬を受けていた。
ベースラインにおいて他の遺伝子の変異が存在した場合で分けて奏効率を調べたところ、STK11遺伝子に変異を有する患者の奏効率は64%(14人中9人)、STK11遺伝子が野生型の患者は33%(30人中10人)で、KRAS G12C変異とSTK遺伝子変異の両方を有する患者でadagrasibの効果が高かった。KEAP1遺伝子、TP53遺伝子など他の遺伝子の変異では明らかな傾向はなかった。
STK11遺伝子に変異を有する患者のベースラインにおいて免疫の活性化はされていない状態だったが、adagrasibの投与によって免疫反応に関連する転写物の増加が認められた。
adagrasibの1日2回600mg投与で、血中濃度は有効性に必要なレベルを超えていた。また、adagrasib投与によってKRAS/MAPK経路の情報伝達の低下が認められた。
KRYSTAL-1試験の全コホート110人における解析でグレード3/4の副作用が発現したのは30%、グレード5は2%(再発肺炎と心不全)だった。薬剤関連の副作用で中止となったのは4.5%。多く認められた薬剤関連副作用(全グレード)は、吐き気、下痢、嘔吐、倦怠感などだった。多く認められた薬剤関連のグレード3/4の副作用は倦怠感、ALT上昇、AST上昇だった。