●補助化学療法の目的
手術によってがんを完全に切除できたと考えられても、残念ながら、がんが再び現れてしまうことがあります。これをがんの「再発」といいます(参考:大腸がんの再発とは)。再発は、目には見えないごく小さながんが、手術で切り取った範囲の外に残っており、それが時間とともに少しずつ大きくなり、目に見える大きさになったものです。
再発したがんは、再発を発見した時期にもよりますが、完治に至るのはなかなか難しいというのが現状です(参考:再発チェックのための定期検査)。そのため、手術後の再発をできるだけ防ぐような治療法の工夫が重要になります。
手術時には、がん細胞が潜んでいる可能性のあるリンパ節をきちんと切除することで、できるだけ再発率を低下させるように取り組んでいます(参考:大腸がんの手術の基本)。さらに、手術で取りきれなかった可能性のあるがん細胞を攻撃し、再発が起こる可能性をできるだけ減らすことを目的として、抗がん剤治療を行う場合があります。これを「補助化学療法」といいます。
●補助化学療法の適応
再発が起こる確率(「再発率」といいます)は、最初に大腸がんが発見されたときの進行度(ステージ)によって異なります(参考:大腸がんの再発とは)。大腸がんが早期の段階で発見された方では再発率は低く、がんがある程度進行してから発見されて手術を受けた方では、再発率が高いといえます。
一般に、再発率が高いと考えられる病状の方では、再発の可能性をできるだけ減らすために、補助化学療法が勧められます。具体的には、国内外のデータから、リンパ節転移があるステージIII(再発率約30%)の患者さんは、補助化学療法を受けた方がよいと考えられています。
一方で、大腸がんが比較的早期に発見された方が補助化学療法を受けて、再発が起こらなかったとしても、もともと再発する確率が低かったわけですから、補助化学療法を受けなくても再発しなかったかもしれません。しかし、抗がん剤を使うことによる補助化学療法の副作用は、程度の差はあってもかなりの方に生じます。このため、再発の可能性が低い方には、補助化学療法はあまりお勧めできません。
また、同じ進行度の大腸がんの手術成績(5年生存率)を欧米と日本で比較すると、日本の方が優れているというデータが示されています(表1)。このため、欧米で補助化学療法としての有効性が証明された治療法が、日本でも同じような効果を得られるかどうか、疑問視する声もあります。

表1 日米のステージIII大腸がんの手術成績(5年生存率)の違い
補助化学療法は、攻撃する目標や効果が目に見えないため、治療が本当に必要な患者さんとそうでない患者さんを事前に正確に見分けることはできません。医師は、さまざまなことを堪案して、補助化学療法をお勧めする患者さんを決めています。
自分が補助化学療法を受けた方がよいのかどうかわからない場合には、担当医とよく相談してください。特に、ステージIIIではない患者さんで補助化学療法を希望する場合には、そのメリットとデメリットの両方について説明をよく聞いた上で、判断することをお勧めします。
●補助化学療法の内容
大腸がんの術後補助化学療法に使用される抗がん剤としては、古くから用いられているフルオロウラシル(商品名:5-FUなど)、5-FU系の飲み薬であるテガフール・ウラシル配合剤(商品名:UFT)、カペシタビン(商品名:ゼローダ)などと、2009年に補助化学療法で使用できるようになったオキサリプラチン(商品名:エルプラット)が挙げられます。
大腸癌研究会(ホームページ:http://www.jsccr.jp/index.html)が2010年7月に発行した「大腸癌治療ガイドライン 医師用 2010年版」では、補助化学療法について、以下の治療法を推奨しています。
また、その後も新たな臨床試験結果がウェブ上のガイドラインに追加され、2011年にはCapeOX(カペシタビン+オキサリプラチン)療法が術後補助化学療法で選択できるようになりました(表2)。

表2 推奨されている補助化学療法
(日本における保険適応収載順、大腸がん治療ガイドラインより)
【5-FU系薬剤】
注射薬の5-FUは、その効果を高める葉酸の一種であるレボホリナート(LV)とともに用いる方法が、補助化学療法として有効であることが幾つもの臨床試験から明らかになっています。5-FU+LV療法は国内外で広く使用されていますが、週1回、注射のために病院に通う必要があり、術後の社会復帰の妨げとなっていました。
そこで、より簡便な飲み薬の開発が進められ、UFT+LV療法やカペシタビン療法が、補助化学療法に使用できるようになりました。
これらの治療法の効果はいずれもほぼ同等と考えられており、副作用は白血球減少、食欲低下、吐き気、下痢、だるさなど、比較的軽いものが多いです。副作用が起こった場合にも、薬の量を減らしたり間隔を空けたりすることで対処できる場合がほとんどです。
【オキサリプラチン(FOLFOX療法)】
海外では、5-FU+LVにオキサリプラチンを加えたFOLFOX4療法やmFOLFOX6療法が補助化学療法の標準治療とされています。具体的には、オキサリプラチンを併用することで、6年後に患者さんが生存している確率が約4%上昇すると報告されています。
一方、オキサリプラチンには、手足がしびれたり喉に違和感を覚えたりする、末梢神経障害という特有の副作用があり、日常生活に支障を来す場合があります。また、薬剤費はオキサリプラチンを使わない場合に比べて約2〜3倍になります。患者さんの窓口負担額は、3割負担の方で1カ月あたり約12万円になります。ただし、高額療養費制度を利用して、負担を減らすこともできます。
補助化学療法を受けるかどうかは、がんの再発の抑制というメリットだけではなく、副作用や費用など、治療に伴うデメリットも十分に考えて判断することが勧められます。がんの深さや転移のあるリンパ節の個数などの情報も参考にして、再発率が高いと考えられた場合には、FOLFOX療法を選択することも考慮してよいと思います。