どこの場所(臓器)に転移や再発が起こったとしても、まずは転移・再発したがんを手術によって完全に切除できるかどうかを検討します。
転移・再発を起こした大腸がんの治療の基本方針
大腸がんでは、他の臓器に転移したがんをすべて手術で取りきることができれば、約40%の人はがんが完全に治ったといえます。残念ながら現時点では、抗がん剤などの薬剤だけで他の臓器に転移した大腸がんを完全に治すことは非常に難しく、「手術で取りきれるかどうか」は、転移・再発を起こした大腸がんの治療における最も重要なポイントとなります(図6)。

転移・再発が一つの臓器にとどまっており、また手術で取りきれると判断された場合には、手術を行います。転移・再発が二つ以上の臓器にあった場合(例えば肝臓と肺)でも、それぞれの転移・再発が切除できると判断された場合には、手術を行うこともあります。大腸がんの転移・再発では、積極的に手術を行うことで、患者さんの生存期間を延ばすことができるということがわかっています。
がんが完全には切除できないと考えられた場合、または、患者さんが手術に耐えられないだろうと判断された場合などには、がんの増殖を抑えるために、抗がん剤などを使った化学療法や放射線療法などが選択されます(詳しくは「化学療法とは」、「放射線療法とは」参照)。
近年、大腸がんに効果的な薬剤が次々と開発されており、これらの治療によってがんが小さくなり、当初は切除できないと考えられていたがんが切除できるようになったり、切除には至らなくてもより長生きできたりする患者、さんが増えてきています。また、がんの増殖を抑える治療ではありませんが、痛みを抑えたり、便通を改善したりするなど、患者さんの症状を和らげる治療(緩和ケア)も行われます(詳しくは「緩和ケアとは」参照)。
転移・再発を起こした大腸がんの治療法は、病状によってさまざまです。医師からよく説明を受けましょう(詳しくは「切除できない進行再発大腸がんへの化学療法」参照)。
肝転移の治療法
大腸がんは、肝臓に転移しやすいがんです。大腸がんと診断された人の約11%に肝転移がみられ、大腸がんの手術を受けた人の約7%に肝臓での再発がみられます。
肝臓に転移がみられた場合は、まず、肝臓のどの部分に転移巣が幾つあるのか、肝臓以外に転移している臓器がないか、転移巣がすべて切除できるかどうか、手術後の生活に支障がないだけの肝臓が残せるかどうか、患者さんが手術に耐えられるかどうか、という検討が行われます。手術が可能と判断された場合、肝臓を切除する手術が行われます。手術で転移巣がすべて切除された場合は、約40%の患者さんは治る可能性があります。
転移が肝臓だけにとどまっていても、小さな肝転移が肝臓全体に散らばっていて、手術ではがんをすべて取りきることができないと考えられた場合、化学療法が勧められます。化学療法により転移巣が小さくなった結果、手術が行えるようになることもあります。
抗がん剤などの薬剤やその投与方法には幾つかの種類があります(詳しくは「使用される薬剤は」参照)。
抗がん剤の投与方法としては点滴もしくは内服(飲み薬)が一般的ですが、肝転移では、肝動脈という太い血管に軟らかな管(カテーテル)を入れ、そこから肝臓へ抗がん剤を注入する「肝動注療法」という方法もあります。がん組織に栄養を供給している肝動脈に直接抗がん剤を注入するため、より少量の抗がん剤で高い効果が得られ、吐き気などの全身の副作用が少ない治療方法です。
手術ではがんをすべて取りきることができない場合、転移巣の大きさが小さければ、「熱凝固療法」と呼ばれる治療が行われることがあります。これは、がんの正確な位置を確かめた上で、皮膚の上から特殊な針を刺して先端から電磁波を発生させ、がんを熱で固めて焼いてしまう方法です。用いる電磁波の波長の違いにより「マイクロ波凝固療法(MCT、Microwave Coagulation Therapy)」と「ラジオ波焼灼療法(RFA、Radio-Frequency Ablation)」にわけられます。
肺転移の治療法
大腸がんの転移が肝臓の次に起こりやすいのが肺です。大腸がんと診断された人の約2%に肺転移がみられ、大腸がんの手術を受けた人の約5%に肺での再発がみられます。肝転移と同様に、転移が肺だけ、もしくは肝臓と肺だけで、転移がすべて切除できた場合には、約40%の患者さんは治る可能性があります。
肺に転移がみられた場合も、まずは、肺のどの部分に転移巣が幾つあるか、肺のほかに転移している臓器がないか、転移巣がすべて切除できるかどうか、手術後の生活に支障がないだけの肺が残せるかどうか、患者さんが手術に耐えられるかどうか、という検討が行われます。手術が可能と判断された場合、肺を切除する手術が行われます。
肺を切除する手術はこれまで、胸を大きく切り開く開胸手術で行われてきました。しかし近年、胸に小さな穴を数カ所開けて、そこから内視鏡と手術器具を入れ、モニターの映像を見ながら手術を行う「胸腔鏡手術」という方法が行われるようになってきています。この方法は、傷が小さいため患者さんの負担が少なく、手術後の回復も早いという利点があります。
手術ではがんをすべて取りきることができない場合、または肺以外の臓器にも転移がある場合には、化学療法が勧められます。化学療法で使う薬剤には、幾つかの種類があります(詳しくは「使用される薬剤は」参照)。また、転移のできた場所、転移巣の大きさや数、患者さんのからだの状態によっては、放射線療法やラジオ波焼灼療法(RFA)などが行われる場合もあります。
その他の臓器に転移・再発した場合の治療法
そのほかにみられる転移・再発として、腹膜播種、脳転移、骨転移などがあります。
【腹膜播種】腹膜播種とは、お腹の中に種をまくようにがん細胞が散らばって広がるものです。それぞれのしこりは小さいために、CTなどの画像検査でも早期発見が難しいとされています。腹膜播種は、小さなしこりが徐々に大きくなり、「がん性腹膜炎」という状態になると、腸管が狭くなって腸閉塞を起こしたり、お腹の中に水がたまったりします(詳しくは「大腸がんの広がり方」参照)。
いったん播種をおこして散らばってしまったがんは、そのすべてを手術で取りきることは難しいため、化学療法を行います。ただし、腸に狭いところができて食事が取れなかったり、吐いたりするなど、つらい症状があるときは、症状を和らげるための手術を行うこともあります。
【脳転移】大腸がんは、頻度は低いのですが脳へ転移することもあります。脳のどの部分にも転移は起こりますが、転移のできた場所によって麻痺やふらつき、うまくしゃべれない、ものが二重に見える、けいれんを起こすなどのさまざまな症状が表れます。また、脳が腫れることにより、頭痛や嘔吐、意識障害を起こすこともあります。大腸がんの患者さんに、これらの症状が表れたときは、脳転移を起こしている可能性があります。
脳には抗がん剤が届かないので、脳転移の多くは、「ガンマナイフ(ガンマ線)」という放射線治療が行われます。治療効果は高く、治療後3カ月以内に70~80%の患者さんで症状の改善が認められます。手や足の麻痺など、日常生活に大きな支障を来す症状がある場合には、患者さんの病状に応じて、手術が行われることもあります。
【骨転移】大腸がんの骨転移は、大腸がんの転移の中では1~2%の頻度で、全体からみれば少ないのですが、治療が難しいものの一つです。
大腸がんが骨に転移すると、次第に骨が溶けて破壊され、崩れて周りの組織を圧迫します。その結果、しびれや麻痺、痛みなどの症状が表れます。また、転移した骨は骨折しやすく、骨折をきっかけに転移が見つかることもあります。
大腸がんの場合、骨だけに転移していることは珍しく、肺などの他の臓器にも転移がある場合がほとんどです。このため、化学療法などを行いつつ、骨転移に対しては、主に痛みを和らげる治療が行われます。転移した骨に放射線を当てたり、体の中から放射線治療ができる薬(ストロンチウム)を注射したり、麻薬(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル他)などの痛み止めを使ったりして、痛みのコントロールを行います。
[参考サイト]
・大腸癌研究会「患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2014年版」
・大腸癌研究会「大腸癌治療ガイドライン 医師用2016年版」
・認定NPO法人キャンサーネットジャパン「もっと知ってほしい大腸がんのこと(2017年版)」
・日本ガンマナイフ学会「ガンマナイフ治療について」