こんにちは、Cadetto.jp管理人の増谷です。Cadetto世代のみなさんは、「総合診療」に興味をお持ちの方も多いのではないでしょうか。しかし、総合診療科の医師のキャリアは分かりにくく、その道に進んだときにどこを目指せばいいのか不安に思ったり悩むこともあるでしょう。今回は、獨協医科大学病院で総合診療医のキャリア形成を見える化しようと試みている志水太郎氏(同病院総合診療医学・総合診療科教授)に、取り組みを伺いました。


しみず たろう●2005年愛媛大学卒。江東病院での初期研修、市立堺病院での後期研修・内科チーフレジデントを経て、米エモリー大学公衆衛生大学院でMPH、オーストラリアのボンド大学経営大学院でMBAを取得。カザフスタンのナザルバイエフ大学客員教授、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校臨床研究員を務め、練馬光が丘病院総合診療科の立ち上げで帰国。その後、ハワイ大学内科を経て、東京城東病院総合内科を立ち上げた後、現職。Cadetto.jpにて『毎回5分、初めての診断戦略』を連載中。

 医師のキャリアメイキングにおいて、まず考えてほしいのは、医師人生は約40年続くという事実です。様々な施設の後輩たちからの相談でよく感じるのは、医師20年目くらいのバリバリ働ける時期に自分がどう活躍するかということは考えていても、医師人生の後半をどう過ごすかについては、あまり想定していないということです。

 医師人生の後半には、自分は開業しているかもしれないし、診療所に勤務しているかもしれないし、市中病院で自分の専門疾患以外も診る外来を担当しているかもしれないし、大学病院で臓器別診療科のスペシャリストになっているかもしれません。こうした選択肢を考えたとき、「大学病院で臓器別診療科のスペシャリストになっている」以外のケースでは、ジェネラルに診療する力が必要になることが分かります。つまり、専門特化した人でも、最後はジェネラルに診る力を求められることが多いのです。

 ジェネラルに診る力は、適切なフィードバックが受けられる環境があれば効果的に訓練できます。外勤やバイトで内科の外来に立ち、多くの患者を診たとしても、フィードバックのない環境では訓練にならず、「自己流」になるリスクがあります。疾患の見落としや、様子見した結果悪化してしまったという事態は、こうした自己流の学びによって引き起こされている部分が多いと考えています。もちろん、良いアンテナとセンスを持ち、独学でも上手に伸びる能力がある方は例外的にいるかもしれませんが、あくまで例外だと思います。

 また、医師の実力の地盤は、体力や、知識を吸収する頭の柔軟さといった点から、10年目までにある程度固まると考えています。指導医クラスになってからでは、教わる側に回ったときの心理的障壁も高く、教わるのは難しくなってくるでしょう。思考が柔軟な最初の10年間でどれくらい良質なフィードバックを現場で受けられるかが大事です。ジェネラル領域においても、その期間をしっかり俯瞰的な視野の総合診療の指導医の下で学ぶことは、総合診療医としての成長を形成する期間としてその医師に極めて大切な点と考えています。

医師5~6年目以降のトレーニングを見える化

 初期研修と後期研修はカリキュラムがありますが、後期研修が終わる5~6年目以降にどのようなトレーニングをしていけばいいかは明示されていません。後期研修を経て患者が診られる自信がついてきたところで、「この後自分はこういうスキルが必要だ」と自分で決められればいいですが、目標を見失いがちになる後輩が多いことも事実です。私たちのチームでは、後期研修が終わった次のステップ、スタッフクラスの医師のトレーニングを見える化しています。

 後期研修後の医師に必要なトレーニングとは、まずは現場でのピアレビューを受けることです。例えば、目の前のケースに対して自分の診断のプロセスが妥当か、その判断は標準か、標準でない場合の治療推論のプロセスが妥当か、また後期研修医に教育すべきポイントが目の症例で妥当であったかなどです。獨協医科大学病院総合診療科のスタッフは全員が若く、フィードバックがしやすい雰囲気が育まれています。

 獨協医科大学病院の場合、大学病院でありながら、コモンな疾患も数多く診るという市中病院のような特徴があります。コモン疾患から、最新鋭の医療機器が移植されている患者の発熱など、スタッフレベルで臨床力が試されるような複雑でときにカオスな症例の経験も多く積むことができます。また、総合診療科が外来・救急・病棟という全ての病院のセッティングを診ますし、全ての診療科がそろっているため、「うちの病院ではその疾患が診られない」ということがなく、自分が内科外来や救急外来でファーストタッチした患者を、最後まで診ることができます。

 ここまでは後期研修でも同じですが、スタッフクラスの場合、後期研修の延長のような形で臨床をするのではなく、また別のカリキュラムで、ベッドサイドの思考力を洗練させていきます。例えば、スタッフクラス以上しか議論に参加できないハイレベルな症例カンファレンスを毎朝行って磨いています。

 当科では、インプット目的のカンファレンスや勉強会はスタッフの時間効率を下げると考え、基本行わない方針です。その代わり、日々出会うケースからの学びをオンラインの様々なツールを利用してオンラインで共有しています。

 スタッフレベルで、既に標準となっているエビデンスの網羅的な習得を目的とした訓練をする際は、米国内科学会の問題集「MKSAP」を基本とし、その他領域でも米国神経学会の「NeuroSAE」や米国腎臓学会の「NephSAP」、米国心臓病学会の「ACCSAP」といった問題集を解くことで押さえます。その上で、新しく積み重なるエビデンスについては、論文の共有を通して勉強します。スタッフクラスの医師は、毎週土曜にあらかじめ指定された約50ジャーナルの中から、自分が面白いと思った論文を3つ以上選ぶことがノルマとなっています。全員が3つ以上挙げることで、一定の網羅性を担保しています。注目度が高い論文であれば重複することもあります。選んだ論文は概要とリンクをオンライン共有ソフトにアップし、そのままオンライン上でディスカッションしたりしています。

臨床能力以外で学びが必要なこと

 ケースリポートやオリジナルの研究の論文を投稿したときは、アクセプトされるまでサポートします。「研究とか論文執筆なんて興味ない」という人もいるかもしれませんが、論理的な考え方ができると臨床にも好影響があるので、お勧めです。自分がなぜこの論文を書くのか考えたり、査読者の質問に答えるうちに、論理的思考能力が育ち、日ごろの臨床でも重要な所見などにアンテナが立っている状態になります。

 それから、仲間を集められるようになることも重要です。今、総合診療の勢いが落ちているのは、ある病院に1人だけデキる総合診療医が行ってもつぶれてしまうためです。支え合い、学び合う仲間、チームが大事なのです。この仲間集めの能力を鍛えるには、書籍の出版や商業誌への寄稿などで拡散力を持つ必要があります。

獨協総診で育った医師は、このまま本丸の獨協総診を支えて行ってくれる人々の他にも、いずれどこかの病院に総合診療を根付かせるために出て行き、仲間を集めるリーダー的立場になっていくというキャリアパスも歓迎していますので、その際に必要になる訴求力の要素となる出版や寄稿のチャンスの提供や、執筆のサポートも行います。

 ちなみに、学位は「臨床の仕事をする」という観点からすれば総合診療医としてはオプションとも取れますが、リーダーを育成するという意味では、あってもいいなと思っています。大学の総合診療科は今は全体としてはあまり元気がありませんが、これから盛り上がってくると思います。医学生に総合診療の面白さを伝えられる機会が持てるのは、とても大きいことです。私は、自分が大学教授になるなんて、昔は思っていませんでしたが、なってみたら、自分のやりたかったことが次々に実現できて視野が広がりました。ただ、総合診療の専門の教育を受けて育ち、臨床に一生懸命打ち込んでいる医師は、立派な総合診療医なのですが、そうした医師は論文を書いていないことが多いので、教授選で不利になり、大学の総合診療科のトップに生粋の総合診療医がなかなか就けないという事情もあります。そういった意味でも、総合診療科でも論文をしっかり書いておく意義はあるでしょう。

 そして、やがてリーダーになるという観点から、チームマネジメントの方法や、ベッドサイドでの教育の仕方も教えます。リーダーになり、チームをまとめるには、様々な困難があります。どうやって人をリクルートするのか、ステークホルダー調整はどうすればいいのかといったマネジメント面の指導もしていきます。教育の仕方としても、「これを疑う患者の場合、必ずここを診よう」というように、教育する内容をパッケージ化してまとめる工夫などを教えるなど、スタッフの教育内容の最低限の標準化を図る工夫を行っています。

 例えば、感染性心内膜炎を疑ったら、血液培養を出し、エコーをして……という流れになりますが、血液培養が陽性にならないときでも、フィジカルをきちんと精査すればサインに気づけることがあります。「血液検査で陽性にならなかったからCTをして…」という流れに慣れてしまうと、CTがない環境では何もできない医師になってしまいます。リアルな観察をすることで、実感を持って患者の病態を把握できるようになります。そして、こうした体系的に整理されたフィジカルを人に教えると、同時に自分のフィジカル力も鍛えられていきます。パッケージされたリストを押さえて実際に使えるのが後期研修医、さらにコツを伝授できるのがスタッフ、というイメージです。

 獨協総診のアピールを最後にもう1つしておくと、サステイナブルなチーム編成のお陰で「子育てしやすい環境」があります。病棟も外来もチーム制になっていて、例えば外来は1人の患者さんを初期研修医、後期研修医、スタッフの3人で診ます。ですので、子どもの急な病気などで1人いなくなっても何とかなる体制にもなっています。週20時間勤務すれば常勤を維持できるフレックス制度もありますし、育休も取りやすい雰囲気です。実際に、私も子どもが産まれたときに合計5週間の育休を取得しました。我々はこれからも、総合診療領域のリーダーを育成するのに最適の環境を整備していきたいと思っています。