こんにちは、Cadetto.jp管理人の増谷です。今秋、SNSで話題になったことを契機に、にわかに注目が集まった「妊婦加算」。一部には、妊娠すると金銭的負担が増えるという意味で「事実上の妊娠税だ」などと揶揄する声も上がりました。今回はこの加算について、産婦人科医の宋美玄(そんみひょん)氏(丸の内の森レディースクリニック[東京都千代田区]院長)に聞きました。

 妊婦加算は、2018年度の診療報酬改定で新設された加算です(関連記事:妊産婦の外来管理に対する評価を新設へ)。妊娠中の患者が外来を受診した場合、標榜科を問わず初診時75点、再診時38点を算定できます。医師が診察の上、妊婦であると判断した場合に算定でき、妊娠反応検査の実施や母子健康手帳の確認は必要ではありません。

 妊婦加算は、妊婦の診療に必要となる配慮を評価するものです。母体への効果だけではなく、胎児への安全性を考慮した検査や処方を慎重に判断する必要があるほか、健康状態の確認も、妊娠の継続という観点からの配慮が必要になります。宋氏は、「妊婦診療に関して、これまで行ってきた配慮に報酬が付くことは、価値が認められたようでうれしい」と話します。

「事実上の妊娠税」との声には「特別なサービスの分、お金がかかるのは仕方がない」が…

丸の内の森レディースクリニックの宋美玄氏

 ただこの妊婦加算に対し、秋ごろからSNSなどで「妊娠したらさらに金銭的負担が増すのはおかしい」「事実上の妊娠税」といった声が散見されるようになりました。これに対し宋氏は、「特別なサービスを受けたら、その分少しお金がかかるのは仕方がないこと。妊婦加算を妊娠税というなら、生活習慣病管理料は生活習慣病になった罰金ということになるのか」と疑問を呈します。妊婦加算以外にも、小児加算など患者属性に対する加算は存在します。宋氏が挙げた生活習慣病管理料は、生活習慣に関する総合的な指導や治療管理を行った場合に算定する項目。このように、特別な配慮が必要な診療については、これまでも診療報酬制度で対応されてきました。

 一方、宋氏は「もちろん、薬も出さず、検査もせずに『産婦人科へ行ってくれ』と言ったのに、会計で妊婦加算を取るべきではないと思う」と付け加えます。あくまで、診療上、妊婦に対する特別な配慮を行った場合に算定するべきでしょう。先日、コンタクトレンズの処方で妊婦加算による自己負担が発生したケースを引き合いに、衆議院議員の小泉進次郎氏が「おかしいと思うところがある」と発言し、厚生労働省が「投薬のないコンタクトレンズの処方では算定不可」などの案を出し、見直しを進めています。

 また、小泉氏は「政府が少子化対策を進める一方で、妊婦の自己負担が増える現状は逆行しているのではないか」と指摘します。今回の妊婦加算が特に話題になった背景には、「少子化対策を訴える割に、妊娠したら負担が増えるのはおかしい」という国策の矛盾を感じる人が多かったこと、開始するときの周知が足りなかったため、突然負担が増えたと感じる人がいたことがあるでしょう。騒動が大きくなってきた11月2日、厚生労働省は各都道府県に対して妊婦加算に関する情報を提供するなどの対応を求め、「妊娠中の健康管理及び妊婦加算の周知について(協力依頼)」を出しています。

 宋氏は「妊婦たちは、少子化の時代なのに自分たちが優遇されている実感がないのかもしれない。出産にはお金がかかるし、妊婦健診も自費。もし不妊治療をしていれば、さらにお金がかかっているだろう」と理解を示します。小児の医療費助成制度のように、妊婦が直接負担する形にならない対策を取るなど、運用には一考の余地があるでしょう。

診療科を問わず妊婦を適切に診療してほしいという国からのメッセージ
 妊婦加算ができたもう1つの背景として、産婦人科以外の医師にも積極的に妊婦の健康管理を行ってもらうという狙いがありそうです。宋氏によれば、「妊婦が産婦人科以外の診療科を受診した際、検査も処方もしてもらえず、『産婦人科に行ってください』と門前払いされたという話はしょっちゅう聞く」と言います。

 妊娠中の患者への検査や処方が、非妊婦に比べて気を使うのは確か。「例えば妊婦に葛根湯を処方したとして、出産時、赤ちゃんに問題があれば、因果関係は分からなくても『絶対にあの薬のせいだ』と思えば訴訟することはできる。訴訟しないまでも、苦情を言われることが続いた結果、妊婦はできるだけ診ないようにしようと考える医師が増えて今に至っている」(宋氏)。

 診療報酬は、国が医師の行動変容を誘導していきたい方向性が反映されたものです。「受診している妊婦は、適切な検査や処方によって今の不安を解消してほしくて、受診している。その妊婦をちゃんと診療してねという国からのメッセージだ」と宋氏は理解しています。メッセージは発せられたばかりで、その効果はまだはっきり表れてはいないかもしれません。「数百円の妊婦加算で、これまで妊婦の診療を避けてきた医師を、どれだけ誘導できるかは未知数」(宋氏)ですが、「妊婦はどの診療科でもしっかり診療しなければならない」という流れのきっかけになれば、と宋氏は期待しています。