在宅医療との偶然の出会い、2カ月で開業を決めた
 佐々木氏は『ブラックジャック』に憧れて医学部に入った後、「1人で全身を診られる医師になりたい」と考えて総合病院の総合内科に進みました。その後、専門科を決めなければならないタイミングで消化器内科の道へ。

 当初の思いとは裏腹に、消化器内科から肝臓内科、肝細胞癌ラジオ波治療チーム、肝炎ウイルスの研究――とどんどんニッチな領域に入っていって悩んでいた2006年3月、出会ったのが在宅医療でした。「割がいい」という理由だけで行ってみた訪問診療のアルバイトでしたが、2カ月後には診療所の開業申請をするというスピードで事を進め、同年8月から24時間対応の在宅療養支援診療所として保険診療を開始しました。

 大きな特徴は、「救急診療部」を創設し、地域の在宅療養支援診療所と一緒に在宅患者の夜間対応を一元化したことです。「在宅医療は、365日24時間の緊急対応体制が求められますが、医師の献身に頼る体制では持続性に欠けます。そこで、在宅医療の機能分化を考えました」(佐々木氏)。

 つまり、普段はかかりつけ医が地域の患者をケアしますが、かかりつけ医が対応できないときに緊急対応が必要になった場合は、法人を超えたチームで地域の患者を支える仕組みです。こうした仕組みを取り入れたことで、悠翔会で診ている患者数は、全体で日中3000人、夜間8000人 となっているそうです。佐々木氏は「夜間だけ診ますよ、と言っただけで、数千人の患者さんが在宅医療に移行できたことを考えると、家で死にたいと考える患者さんを支える仕組みだと感じています」と話しました。

「孤立」を防ぎ健康な人生を送るために必要なこと
 ちなみに、冒頭の問に戻ると、佐々木氏は超高齢社会をあまり悲惨だとは思っていないそう。「健康な生活を送る上で重要なのは、質の高い医療と思っている人も多いと思いますが、実は医療の優先順位は高くないことが分かっています。高齢になって身体的機能が低下しても、社会的機能や精神的機能を満たせれば、健康な人生を送れます」(佐々木氏)。

 このとき重要なのは、家族や友人、ご近所さんといった本人を支える周囲の人々です。これは今、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の1つとしても話題になっています。高齢者の孤立が問題になっていますが、独居だから社会から孤立している、というわけではありません。佐々木氏によれば、男性の場合、独居のために1人で食事を取っている人よりも、同居人がいるのに1人で食事を取っている人の方が死亡リスクは高いことを示したデータもあるそうです。

※ソーシャルキャピタル:物的資本(Physical Capital)や人的資本(Human Capital)などと並ぶ新たな概念のこと。人と人のつながりや、社会活動への参加などにより得られる資源を指す。

 では、ソーシャルキャピタルに乏しい人や高齢者が健康な人生を送るにはどのような支援をすればいいのでしょうか。「新しい家族関係を築いたり、多世代で交流したり、新しい社会的役割を作ったりすることで、支えを再生していくことこそが自立支援だ」と話す佐々木氏。この自立支援は個別性の高い手当てが必要となるため、法律などで一気に規制するのは難しいもの。佐々木氏は、「地域包括ケアシステムの中で、それぞれができることに取り組んでいくしかない」とまとめました。