高Uターン率、高出生率…注目地域の取り組みとは
 こうした課題を自主組織で解決するヒントが、次に訪れた松笠地区(人口約320人)にあるように思いました。松笠地区は、年に何度も地域でのお祭りがあったり、歌舞伎が伝統芸能として伝わっていることなどから、地元出身の若者が大学や大学院を卒業した後に戻ってくる割合が高く、人口当たりの出生率が島根県内で首位を争うほどで、注目を浴びているそうです。雲南市の市街地に車で20分、隣の松江市にも車で1時間ほどという立地もあり、小さい子どもがいる家庭では親が市街で働き、祖父・祖母が世話をすることが多いといいます。

 また、人口が少なく、地域の人全員の名前と顔が分かる関係が築けているため、日中独居になるような世帯や高齢者のみの世帯でも、常に誰かが気にかけるようになっているそう。自主組織である松笠振興協議会の石橋巧氏は、「寝たきりにでもならない限り、独居でも地域にいることが可能」と言います。

 この地区の取り組みで機知に富むのが、独身男性向けの「婚活塾」です。地域の消防団を担う若い男性の減少を問題視したことをきっかけに、出生率をさらに伸ばすべく実施しました。地区の独身男性たちは、もともと雲南市の市街地で開催されている婚活イベントには参加したこともあったそうですが、石橋氏によれば「格好がダサいし、普段は家と職場の往復ばかりで女性と話すことも思いつかないし、うまくいっていなかった」ということです。

 そこで、スーツメーカーの社員によるおしゃれな服の選び方講座、美容師によるヘアスタイル講座、コミュニケーションの講師による話し方の練習などを重ね、プレ婚活イベントのようなスタイルでの練習までして、万全の体制で婚活イベントに挑みました。その結果、「講座の影響かは分からないが、6組がカップルになったり結婚したりした」と石橋氏は話していました。

地域で暮らし続けるためのポイントは「生活上の困難」の削減?
 先ほどの住民の方と話をする中で、全ての方が口をそろえるのが「見立てが良くてコミュニケーションが取れる医師が地域に来てくれたらうれしい」ということ。「見立てが良い」というのは、「患者がかぜだと思って受診したらちゃんとかぜ薬を出してくれる医師。注射を打ってほしいと思って受診したときに打ってくれなかったら、不満に思ってみんな行かなくなる」というのが本音。薬剤耐性(AMR)対策として厚生労働省が6月1日に公表した「抗微生物薬適正使用の手引き」第一版では、いわゆる「かぜに抗菌薬」といった処方をやめ、抗菌薬処方の適正化を推進していく見込みですが、人口が限られた地域で開業する医師の場合は特に、住民に嫌われ受診しなくなることが死活問題となります。医療での医師患者コミュニケーションについて考えさせられる一幕でした。

 一方で、これも全ての方が口をそろえていたのが、「訪問看護には期待している」ということ。「高齢者は、医師には話しづらい。看護師だと、背中が痒いとかちょっとしたことでも話せる。そういう面で、看護師が身近にいてくれると心強い」、「親が自力で入浴できなくなってしまったとき、家族で入浴させるのは大変だった。でも、訪問看護に入ってもらって自宅でケアが続けられた」といった声がありました。地域の中で暮らし続けることもできるようにするには、キュアを中心とする医療以上に、生活上の困難を解決する自主組織の取り組みや、訪問看護や介護といったケアの仕組みが重要なのだと感じました。

 私が参加した班で訪れたのは3カ所ですが、6班がそれぞれ別の場所で話を聞いてきており、全部で18カ所を訪れたことになります。中には、地域の訪問看護ステーションや市民病院などもありました。夕方には各班が聞いてきた内容を持ち寄って、「できるだけ本人の意志に基づいた医療を選択できる町にするには」というテーマでディスカッション。最終的には「自分が雲南市民だったらどんなアクションを起こすか?」という視点でそれぞれの意見を語りました。地域のさまざまな関係者の声を実際に聞いてから、参加者それぞれが自分の知見を踏まえて発言し、大いに盛り上がるディスカッションとなりました。

 このように地域の住人の方から医療者、行政まで、1地域のさまざまな立場の方の声が一度に聞ける機会を作ることは簡単なことではありません。今回、雲南市でフィールドワークを受け入れてくれるよう、打診や様々な調整をしたのは、病院の内外で「コミュニティーナース」として地域で活動する矢田明子氏(NPO法人おっちラボ代表理事)。今回のツアーを振り返り、「外部の人を受け入れることで、地元の人たちも改めて自身の頑張りに気付くことができる。また、新たな視点も学習できて良かった」と語りました。

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