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連載小説「フルマッチ」

第6章 負け組病院にキセキが起きる…のか!?(その3)
お友達から
―2012年8~10月(マッチング)―

2016/02/29
崎長ライト

 山田拓也には、中間発表後は会わなかった。
 西果中央病院にマッチするという確信があったからだ。2週間前の中間発表のとき、彼の西果訪問は3回目。目的はさくらに会うことと、健は感じとっていた。卒業試験前の忙しい時期に来るなんて、よっぽどのことだ。こういう恋の仕方を知らないオタク青年は、一途に思いつめると、結構大胆なのだ。
 案の定、健に会うなり、山田は聞いてきた。
「健先生、さくらさんのこと、どう思ってるんですか?」
「どうも、こうも、2回もふられたよ」
「でも、好きなんでしょう?」
 健は答えなかった。20代の恋と30代の恋は違う。「好き」が意味するものさえ違うような気がする。
「健先生、僕、プロポーズしようと思ってるんですが」
「いきなりか? 付き合ってんのか、おまえたち?」
「いや、正式には、まだ」
「大胆やなあ~」
「いいですか?」
「俺に許可をもらう必要もなかろう」
「はっきりさせたいんです。さくらさんが、健先生と自分のどちらを取るか」
 この勢いと一途さにはかなわない。恋はゲームのようには行かないし、そもそもさくらにとって二択という問題なのか? そう思いながらも、健は冗談で言った。
「それじゃあ、ねるとん、やるしかないなあ」
「何ですか、それ?」
「男と女のマッチングみたいなもんだよ」
「やりましょう!」
 いやいや、何もそこまでと思ったが、さくらは「やろう」と一言。あとで考えると、さくらなりの優しさだったのかもしれない。
   
   ※   ※   ※

 中間発表の前日の夕方、砂浜で、5分ずつのフリータイム。
 さくらは夕日を背に、波打ち際に立っている。山田は一生懸命、身振り手振りでさくらへ愛を伝える。
「大好きです」「今は学生だけど、頑張っていい医者になります」「結婚して、西果の人になります」「自分もまだ子どもだけど、サユリちゃんのいい親になるよう頑張ります」
 ストレートな告白は、離れていた健にも聞こえるほど、熱が入っていた。若さと純粋さには勝てない……。
 次に健だが、何も話すことがない。
 もう、言い尽くしていた。勝負は明らかだった。
「ごめんね、センパイ。こんなことやらせて」
「いいよ」
「思い出しました?」
「何を?」
「学園祭」
「10年前の?」
「ええ」
「そういえば!」
 ねるとん大会があった。
「出たよね、俺たち」
「たぶん」
 さくらは笑っていた。

 告白タ~イム。
「愛してます! 結婚してください!」
 山田の背中が折れ曲がり、右手が差し出されると、健が大声で叫ぶ。
「ちょっと、待ったあ~!」
 ビニールサンダルを脱いで砂浜をダッシュし、さくらの前に立つ。
 山田と健が並ぶ。
 健は本気で言った。これが、最後だろう。
「好きです。付き合ってください!」
 さくらの後ろで、陽が海に溶けてゆく。

「お友達からお願いします」
 さくらは山田の右手を握って、微笑んだ。
 10年前の学園祭と同じように、健は夕日に向かって全力疾走した。
 やわらかい砂の感触は心地よく、波の音も優しい。海から吹く風を切りながら全力で走った。
 どこまでも走れるような気がしていた。

  ※  ※  ※

 そして、10月最後の木曜日。午後2時。
 西果中央病院の行く末を大きく左右する、初期研修医のマッチング。最終発表がマッチング協議会のホームページ上で行われる。


※「フルマッチ」は毎週月曜に掲載します。

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著者プロフィール

崎長ライト(ペンネーム)=濱田久之(長崎大学病院医療教育開発センター長)。長崎県の離島生まれ。予備校講師などを経て医師に。長崎県に医師をリクルートする新鳴滝塾事務局長としても県内外を奔走している。

連載の紹介

連載小説「フルマッチ」
日本の最西端、人口減少も高齢化も進む西果市。唯一の病院、西果中央病院も医師不足のあおりを受けて崩壊寸前。現状を打破すべく、研修医獲得の任に着いたのは、内科医、矢倉健。臨床の腕は確かだが、ガサツでヘタレ。健は西果中央病院を救うべく、立ち上がる…のか?

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