僕は救急外来の血液ガス・電解質分析装置で検査を始めていた。救急外来の装置は、身元不明の心肺停止の患者さんの検査をすることもあるため、電子カルテIDの入力は不要だ。簡単な操作のみで動脈血の検査ができる。それを後で電子カルテにスキャンし、検体検査室で手入力するという仕組みになっている。
ものの15秒程度で検査結果が印字されてきた。その結果を見て、僕は自分の目を疑った。予想外の結果だが、これが本当ならばさっき感じた違和感も説明がつく。病院内の廊下を走って戻った。まだ事態の整理ができていないが、この結果が本当であれば、またすぐに救急外来に向かうことになるだろう。
病室に戻り、検査結果を宮沢に手渡すと、予想通りもう1つ血液の検体を渡された。海野さんの大腿動脈から採取したばかりの動脈血だ。
「お疲れさん。今度はこれをお願いできるかな。また救急外来の血ガス分析装置で」
宮沢はそう言いながら今受け取ったばかりの高井さんの検査結果の紙を見つめる。真剣な眼差しの先にははっきりと「K 7.0」と刻まれていた。
「どういうことですか? 高井さんは、低カリウム血症だったはず。なぜカリウムが高いんですか?!」
歯を食いしばりながらギッと睨みつけていたジョージに、宮沢が諭すような声で話しかける。
「見ての通り、高井さんは高カリウム血症さ。もちろんジョージ達のように入院時から主治医として継続して診ていたら騙されたかもしれない。だけど先入観なしに現時点での心電図所見を見たら分かると思うよ。本当に低カリウム血症なのは、海野さんだっていうこともね」
そう言いながら、海野さんの点滴ルートに今作ったばかりのカリウム製剤入りの生食をつないだ。
2人の心電図を改めて見てみると、高井さんの心電図はテント状T波、海野さんはSTが低下しており陽性のU波が増高している。それぞれ高カリウム血症、低カリウム血症に特徴的な心電図だ。実際、僕がもう一度救急外来に走って出してきた海野さんの検査結果は「K2.7」だった。
その後は、高井さんに対して高カリウム血症の治療であるGI療法を行いながら脱水に対しては補液を行い、海野さんに対してはカリウム製剤入りの生食をつなぐことで不整脈も改善して嘔気や手指の痺れなどの症状もすみやかに改善した。もちろん海野さんのカリウム制限食は普通食に戻し、高井さんの食事をカリウム制限食に変更した。
2人に笑顔も戻り、ほのぼのとした「おばあちゃんの家」のような雰囲気が病室に戻ってきた。もちろん病気が完治したわけではない。分子標的薬の治療は始まったばかりだ。
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