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DDDDD〜ディーゴ〜

Episode 3 真逆の真実(第4話)
初期研修医、朝のルーチン

2017/01/23
尾崎 晋平
【前回までのあらすじ】

 江戸大学病院の医師、ディーゴとジョージ、レイカは、4月に循環器内科で初期臨床研修をスタートさせたばかりの1年目医師。初期研修医ではあるが、次々に巻き起こる事件を医局という閉鎖空間で解決するために知恵を集結させ、医師限定の遠隔相談サービスアプリ「ディーゴ」を完成させた。
 様々なヒントを駆使して、2カ月間の循環器内科研修で2つの事件を解決したディーゴたち。6月からは、消化器外科での研修が始まった。江戸大学病院消化器外科の特徴は分子標的薬とカンファレンスだ。消化器外科の石井教授は外科医でありながら内視鏡のスペシャリストで、細田先生は情報システム管理室室長の肩書も持つなど、特徴的な医師も多い。今日から、いよいよ分子標的薬治療の患者を担当する。



※これまでのお話はバックナンバー欄からご覧ください。

 6月8日、水曜日。カンファレンスでは、前日の細田医局長の指示通りで治療を進めることでコンセンサスを得た。

 今回導入する分子標的薬は電解質異常や不整脈が報告されている。そのため、患者の電解質異常や副作用には十分注意するよう、念を押された。連日の血液検査に加えて、不整脈の有無が評価できるように24時間モニター心電図でチェックする。
 今朝の血液検査結果が出たが、海野さんも高井さんも入院時とあまり変わらなかった。

(イラスト:司馬サヤカ)

 海野サチさんのベッドサイドで僕とレイカから検査結果や病状について改めて説明する。これからの入院生活が不安なのだろう。伏し目がちに話をしてくれた。

「今度は腎臓まで悪くなるとはねえ…。1年以上前から入院を繰り返していて、いろいろな抗癌剤を使ってるから、腎臓にも負担がきたのかね。あのゼリーがカリウムを下げる薬なのね。飲みにくいけど、大事な治療だから頑張りますよ。よろしくお願いします」
 ジョージが担当する高井さんも同室だ。隣でジョージと話しているのが聞こえる。
「腎臓に悪いものがあるから入院って言われて来たのに、肝臓の検査結果も悪いのかい? 肝臓は初めて言われたよ。心配でたまらないね。転移でもしているのかね? え? 転移はしていないの? あー、良かった。ご飯もしっかり食べないとね。入院が決まってから1週間、心配で心配で食事が喉を通らないんだよ」
 大学病院に入院になり、新しい治療をするというのは誰しも緊張するものだろう。

 午前中に石井教授の回診があり、昼食後に初回の分子標的薬点滴が開始された。初めての投与後は特に副作用に注意が必要だが、その日は2人とも特に気分不良や発熱、発疹などの副作用はなく順調に経過した。
 しかし、翌日の血液検査結果はあまり思わしくないものだった。


 江戸大学病院消化器外科では、朝のカンファレンスまでにその日の検査結果が出るようになっている。朝6時に病棟の患者さんの採血をして、検査室に提出する。優先的に結果を出してもらうことで、朝8時には全ての結果が出る。これは検査室の協力もあり実現している。
 「研修医の頃は毎朝5時に起きて病棟の採血をするのが仕事だった」と昔の武勇伝を語るベテラン医師もいるが、現在では朝の採血は看護師がするようになっている病院がほとんどだろう。江戸大学病院でも多くの科では夜勤の看護師がするのだが、消化器外科だけはこれが初期研修医の仕事となっている。
 これについて、レイカが珍しく文句を言っている。
「昔と今とでは研修医の仕事内容は違うのよ。超音波などの手技も覚えないといけないし、薬だって昔とは比べ物にならないくらい種類が多いから覚えることがたくさんある。時代が違うんだから、仕事も違って当然。採血の練習なら日中にすればいいんだし、採血するために朝6時に病院に来るなんて非効率よ。お化粧する時間がないじゃない!」
 消化器外科の研修になってから、彼女は朝4時に起きて化粧をしているらしい。なんだかんだ言って、不満は最後の一言に集約されているのだろう。

※「DDDDD~ディーゴ~」は毎週月曜に掲載します。

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著者プロフィール

尾崎晋平(ペンネーム)。循環器内科医。執筆活動以外にも、医療機器の開発や臨床研究、遠隔診療など、興味を持ったものにはなんでも挑戦。

連載の紹介

DDDDD~ディーゴ~
江戸大学病院で初期研修をスタートしたディーゴ、ジョージ、レイカの3人が、次々に事件に巻き込まれていく。先輩医師の助言やIT技術を駆使し、トリックを暴いていく医療ミステリー。

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