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DDDDD〜ディーゴ〜

Episode 3 真逆の真実(第3話)
同日入院の2人

2017/01/16
尾崎晋平
【前回までのあらすじ】

 江戸大学病院の医師、ディーゴとジョージ、レイカは、4月に循環器内科で初期臨床研修をスタートさせたばかりの1年目医師。次々に巻き起こる事件を医局という閉鎖空間で解決するために知恵を集結させる研修医達。イケメンで頭脳明晰なジョージ、医師ネットワークサービスを提供する会社の社長令嬢レイカ、江戸大学のスピーカーの異名を持つ宮沢、そして学生時代は医学生とエンジニアの二足のわらじを履いていたディーゴが力を合わせ、医師限定の遠隔相談サービスアプリ「ディーゴ」を完成させた。
 様々なヒントを駆使し、2カ月間の循環器内科で2つの事件を無事解決したディーゴたち。6月からは、消化器外科での研修が始まった。
 江戸大学病院消化器外科の特徴は分子標的薬とカンファレンスだ。消化器外科の石井教授は外科医でありながら内視鏡のスペシャリストで、細田先生は情報システム管理室室長の肩書も持つなど、特徴的な医師も多い。研修初日は細田先生に院内を案内されながら電子カルテについて説明を受けたディーゴたち。研修2日目は受け持つ患者が発表される。



※これまでのお話はバックナンバー欄からご覧ください。

 6月7日火曜日。昨日、消化器外科で分子標的薬チームのトップを務める細田先生に聞いていた通り、午前中に2人の予定入院があった。1人目は海野サチさん。大腸癌肝転移に対して分子標的薬治療を行うため、入院となった。2人目は高井カネさん。この患者さんも、腎癌に分子標的薬治療を行う予定だ。僕とレイカが海野さん、ジョージが高井さんを担当することになった。

 胸部X線や心電図、血液検査、心エコーなどを施行して病棟に上がり、本人と家族に対して入院時の説明をする。入院後の注意や、今回導入する分子標的薬について、そして各種同意書などだ。インフォームド・コンセントには細田先生が同席してくれた。

 分子標的薬は、癌細胞に発現している蛋白分子を標的とし、その動きを阻害することで癌細胞の増殖を抑制する抗癌剤だ。従来の抗癌剤よりも副作用が少ないと期待されていたが、癌細胞に特異的と考えられていた蛋白分子は正常細胞にも一部存在しているため、やはり実臨床では重篤な副作用もみられる。
 副作用は、皮膚障害、喘息発作、間質性肺炎、電解質異常、感染症、汎血球減少、眼症状、下痢便秘、発熱など。つまり導入する際には、副作用が出現したら迅速に対応するのはもちろんだが、そのような副作用が出現しないように初期から対応することが重要になるのだ。


(イラスト:司馬サヤカ)

 夕方、僕たち3人が医局でカルテをまとめていると、細田先生が声をかけてきた。

「頑張ってますね。海野さんと高井さんですね。入院時のアセスメントはできましたか?」
 目が合った僕は、あわてて手元のメモを見ながら話し始める。
「海野サチさん、72歳女性。大腸癌肝転移の方です。えーっと、前医のCTから変化はないと思います。放射線科の読影レポートにもそう書いてありました。心電図や心エコーも問題ない、と思います。血液検査は腎機能低下と高カリウム血症があります。尿素窒素とクレアチニンはそれぞれ35、1.3で、カリウム5.3です。高カリウム血症については、ポリスチレンスルホン酸カルシウムを開始しようかと、思います」

 細田先生は、僕のたどたどしいプレゼンをビジネススマイルで聞き終えると、その笑顔をそのまま横にいるジョージに向けた。
 「続いて高井さんは、腎癌の75才女性です。胸腹部CTは前医から著変ありません。心電図はI度房室ブロックを認めるのみで、心エコーは特に異常ありません。血液検査ですが、貧血と低カリウム血症、そして軽度の肝酵素の上昇を認めます。ヘモグロビン10.2、カリウム3.0、ASTとALTはそれぞれ50、38です。貧血と肝機能については経過観察、低カリウム血症については補正が必要と判断してスピロノラクトンとカリウム製剤の内服を開始します。明日から分子標的薬を開始するので、コントロールできるまで、連日血液検査でフォローします」
 スラスラとプレゼンするジョージの姿は、とても僕と同じ初期研修1年目とは思えない。細田先生は終始同じスマイルを保ったまま聞いていた。この人は、医師になっていなければトップセールスマンになっていたかもしれない。
「はい、高井さんのアセスメントはそれで良いと思いますよ。海野さんの高カリウム血症については、薬を開始するだけでなく食事もカリウム制限食にしておきましょうか。あと脱水気味のようだから点滴もいれてあげましょう。その他のアセスメントはそれで良いと思いますよ。研修医1年目なのに、みんな優秀ですね」

 この方針で治療を進められるかどうかは、明日のカンファレンス次第だ。いよいよ、分子標的薬治療が始まる。

※「DDDDD~ディーゴ~」は毎週月曜に掲載します。

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著者プロフィール

尾崎晋平(ペンネーム)。循環器内科医。執筆活動以外にも、医療機器の開発や臨床研究、遠隔診療など、興味を持ったものにはなんでも挑戦。

連載の紹介

DDDDD~ディーゴ~
江戸大学病院で初期研修をスタートしたディーゴ、ジョージ、レイカの3人が、次々に事件に巻き込まれていく。先輩医師の助言やIT技術を駆使し、トリックを暴いていく医療ミステリー。

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