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DDDDD〜ディーゴ〜

Episode2 すっぱいぶどう(第6話)
また起こった意識障害、ジョージが渡したものは

2016/10/24
尾崎晋平

※これまでのお話はバックナンバー欄からご覧ください。

 5月16日、月曜日。僕は、循環器病棟の個室にいた。目の前の患者さんの名前は宇野聡子さんだ。肺高血圧症の精査加療目的で入院して、本日CVカテーテル挿入の手技をすることになっている。今日も担当看護師は角野さんだ。相変わらず少し落ち着かない様子だが、慣れてきたのか額の汗は前回までより少ない。
 今日は、看護師長の黒木さんも同席している。最近急変が続いているからだろう。ベッドサイドにはジョージとレイカが並んで立っている。そして、今日は循環器内科の患者さんなのに、なぜかまた総合診療科の江頭先生がドアのところに立ってこちらを見ている。僕と宮沢は清潔ガウンに着替える。いよいよ開始だ。

(イラスト:司馬サヤカ)

 今日も予想通り右内頸静脈アプローチだ。消毒をして清潔な穴あきの布をかぶせる。横では、宮沢が超音波のプローブを準備している。皮下に局所麻酔をする僕の手は少し震えたが、なんとかうまくできた。
 プローブを宮沢に手渡される。どうやら1人でやってみろと言うことらしい。超音波を当て、拍動する血管を見つける。その外側には、内頸静脈が確認できた。肺高血圧症だからだろうか、かなり拡張している。
「よし、それだ。穿刺部と超音波の画像を交互に見るんだぞ。立体像を認識するためにsweep scanとswing scanを使い分けろ。皮膚をチョンチョンとつつくと針先が分かりやすいぞ」
 的確なアドバイスをもらいながら、震える手をなんとか落ち着かせて内頸静脈へ針先を進める。10mLのシリンジに、赤黒い液体がジュワッと逆流してきた。
「よし、そうそう。ディーゴうまいね。初めてとは思えないよ」
 そう言いながら、宮沢が僕と立ち位置を入れ替わる。
「じゃ、あとは見ててよ。今日は外筒がないタイプを使おう。これは針の中をガイドワイヤーが通るんだ。ディーゴがやったように超音波で確認しながら針先を進める。はい、逆血があったから血管内だね。外筒があるタイプではここから1~2mm進めたけど、今日のはそこまで進めなくていい。ほんの少し押しこむ程度かな。そしてそのままガイドワイヤーを挿入する。抵抗がないことを確認しながら進めるんだ。あとは一緒だね、ダイレーターで広げてカテーテルを挿入っと」
 ずっと説明しながら手技を進めてくれる。研修医にとってはこれ以上ない学びの時間だが、ベッドに寝ている患者さんは、自分の手術を実況中継されているのを聞いてどんな気分になるのだろうか。ここで宮沢が患者に一声掛ける。
「宇野さん、大丈夫ですか? 順調にいってますからねー」
「はい、大丈夫です」
 ハッキリと患者さんの意識があることを確認する。どうやら今日は大丈夫なようだ。

 その後も順調に経過し、CVカテーテルを固定して終了した。
「はい、終わりました。角野さん、確認のためにポータブルX線を連絡してください」
 そう言いながら、宮沢は清潔ガウンを脱ぎ、患者さんに声を掛ける。
「宇野さん、終わりましたよ。お疲れ様でした」
 返事がない。顔から体にかけて掛かっている布をめくると、そこには全身汗びっしょりで生あくびをしている宇野さんの姿があった。
「ちくしょう、またか! なんでだよ! ナースコールとバイタルチェック!」
 宮沢の指示が出るとすぐに角野さんはベッドサイドのナースコールで急変を伝えて、血圧を測定する。そして、院内PHSでMRI室に連絡をしようとしたところで僕はマスク越しに「ちょっと待ってください!」と叫んだ。
静まりかえる病室。角野さんはPHSを持ったまま、その場に立っている。
「MRI室への電話はまだしなくて良いです。それよりも角野さんに、今やってもらいたいことがあります」
そう言うと、僕はジョージに目で合図した。ジョージは青い目をキラリと光らせると角野さんに近づき、ある物を渡した。

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著者プロフィール

尾崎晋平(ペンネーム)。循環器内科医。執筆活動以外にも、医療機器の開発や臨床研究、遠隔診療など、興味を持ったものにはなんでも挑戦。

連載の紹介

DDDDD~ディーゴ~
江戸大学病院で初期研修をスタートしたディーゴ、ジョージ、レイカの3人が、次々に事件に巻き込まれていく。先輩医師の助言やIT技術を駆使し、トリックを暴いていく医療ミステリー。

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