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DDDDD〜ディーゴ〜

Episode2 すっぱいぶどう(第5話)
低血糖には唐揚げラリアット

2016/10/17
尾崎晋平

※これまでのお話はバックナンバー欄からご覧ください。

 MRI検査の後に採取した、院内検査分の血液検査結果が出た。

血液検査結果が出ましたので報告します。Na 143、K4.0、NH3 40、空腹時血糖(BS) 71、FT4 1.20、TSH 2.31、その他、薬物の血中濃度も全て正常範囲でした。
5/13 18:22 ディーゴ 


空腹時? 血糖降下薬飲んでるのかな。
5/13 18:51 ミスター3時前


 あの患者さんに糖尿病はないので、血糖降下薬は内服していない。

血糖値が低めですね。でも意識障害が出るような数値ではないですね。
5/13 19:20 肥後モン


 確かに血糖値が低めだったが、正常範囲で問題になる数値ではなさそうだ。血液検査の結果からも、明らかな原因はなさそうだ。もう考えられる原因検索方法は思いつかない。しかし、そんな悠長なことも言っていられなくなった。帰り際に宮沢に廊下で声をかけられた。

(イラスト:司馬サヤカ)

「肺高血圧症で入院中の宇野さんに中心静脈カテーテルを留置することになったから。月曜日の午後予定ね。次は順番的にディーゴだからしっかり予習しておけよ」
 ついに僕が手技をする番が回ってきてしまった。原因不明なまま、手技に臨むしかないのだろうか。

 5月14日、土曜日。長かった1週間が終わり、土曜日がやってきた。1カ月が経過し、循環器内科の日常業務にも慣れてきたが、この1週間は急変が続いたため疲れ倍増だった。
 日中に病棟業務をしていると、看護師の角野さんから声を掛けられた。
「白石さんが企画した今夜の飲み会の件ですが、行けなくなってしまいました。すみません」
 それだけ言うと立ち去っていった。昨日の急変時のことを気にしているのか、それとも元々そういう性格なのか。なんだかつかめない人だ。

 月曜日にCVカテーテルの手技をする患者さんの情報を電子カルテでチェックする。肺高血圧症の方でプロスタグランジンI2製剤の在宅持続静注療法を検討されているようだ。その際には右鎖骨下静脈を使用するため、今回はおそらく内頸静脈が選択されるだろう。CT画像で血管の走行を確認し、意識障害の原因になるような検査結果や内服薬がないかを調べる。失神歴もないようだ。昨日までの急変の連鎖が嘘のように、今日の病棟は平和だ。

 月曜日の手技について考えながら、研修医室に向かう。僕がボーっと歩いていると、レイカが神経内科病棟から出て来た。こちらを見てハッとした顔をすると、スタスタと研修医室に歩いていく。なんだかいつもと様子が違うようだ。
 そこへ、研修同期の岩本君が歩いてきた。広島出身でひょうひょうとしたキャラの岩本君は、今週から神経内科で研修している。病棟に向かうところを呼び止め、レイカのことを聞いてみた。
「レイカ、いや早乙女先生が神経内科病棟から出てきたけど、何かあったの?」
「早乙女先生は、なんか毎日来よるのう。VIPルームの山田豪さんの部屋。まだワシも神経内科は今週からじゃけえ、何しに来よるかは分からん」
 週末にまでレイカが見舞いに行く「山田豪」とはいったい何者なのだろうか。岩本先生の広島弁を聞きながら、僕は考えを巡らせていた。

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著者プロフィール

尾崎晋平(ペンネーム)。循環器内科医。執筆活動以外にも、医療機器の開発や臨床研究、遠隔診療など、興味を持ったものにはなんでも挑戦。

連載の紹介

DDDDD~ディーゴ~
江戸大学病院で初期研修をスタートしたディーゴ、ジョージ、レイカの3人が、次々に事件に巻き込まれていく。先輩医師の助言やIT技術を駆使し、トリックを暴いていく医療ミステリー。

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