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DDDDD〜ディーゴ〜

Episode 1 ディーゴ誕生(第6話)
まさかの超お嬢様からの助け舟

2016/06/13
尾崎晋平

※これまでのお話はバックナンバー欄からご覧ください。

 ジリリリリリリリリ ――。
 目覚まし時計で目が覚める。頭痛がひどい。どうやら昨日飲み過ぎて二日酔いのようだ。今日は4月17日。飲み会翌日の日曜日、学生時代であれば昼過ぎまで二度寝するところだが、始まったばかりの初期研修医には許されない。二度寝の誘惑になんとか抗い、水だけ飲んで家を出た。
 僕が病院に到着した朝9時には、既に循環器の医師はほとんど来ており、ジョージとレイカも眠そうな目で病棟業務をしていた。 午前の仕事を終わらせ、研修医3人で院内食堂に向かう。話題は自ずと心臓カテーテルの合併症が続いている件についてになった。
 通常ではあり得ない頻度であることは間違いなさそうだ。しかしながら、木曜日のカンファレンスで口止めされたからか、循環器内科の医局内ではその件について話せる雰囲気ではない。自分たちだけで原因を調査しようにも、まだ知識がなさすぎる。「3人寄れば文殊の知恵」は医師の世界には当てはまらない。初期研修医が3人集まって相談しても、しょせん研修医の知識の範囲であり、文殊に劣らぬ知恵が出ることは絶対にないのである。結局、それぞれが拙い知識量で、好き勝手に推理している。
 「普通に考えたら術者の金子教授のミスだよな。研修医の俺から見ても金子教授と岸田准教授では腕の違いが明らかだもん。下手過ぎてミスが続いているんだから、早めに引退して宮沢先輩のような若手医師に譲らなきゃ」とジョージはうそぶく。
 レイカは違った見方をしていた。
「噂で聞いたんだけど、近藤医局長と金子教授って10年以上前に付き合ってたらしいよ。教授は既に結婚してたから、愛人? 私怨からの事件の可能性もあるかも」
 僕の推理はこうだ。
「やっぱり金子Jr.が怪しいんじゃないかな。助手に毎回入っているみたいだし、何かやってるんじゃない? 臨床研究のために入れているスワン・ガンツ(SG)カテーテル。あれになんか細工があるとか?」
 僕が言い終わるやいなや、レイカが笑いながら突っ込む。
「それって某医療ドラマと同じトリックじゃない。ディーゴはテレビに影響されすぎ!」
僕なりの推理だったが、どうやら二番煎じだったようだ。

 その後も、何の根拠もない推測ばかりで全く話が進まない。そこへ病棟業務を終わらせた宮沢がやってきた。いつになくテンションが低い。昨夜飲み過ぎたのだろうか。
「やばいよな……」
「どうしたんですか? 2日酔いですか?」
「カテーテルの連続合併症のことだよ。このまま原因が分からなかったら金曜日の5病院合同心臓カテーテルライブでも同じことが起こる気がする」
 弱気な宮沢に、ジョージは「なんで…」とつぶやき、大きな声で続けた。
「…なんでしっかり原因究明しないんですか?!」
「調べてるさ! 動画だってもう何度も確認してる! でも循環器内科の医局員は一昨日の緊急カンファレンス以降、この件に関しては完全にダンマリを決め込んでるし、これ以上は分からないんだ」 
 宮沢は、現在ローテートのため循環器科で研修しているが、本来は総合診療科の後期研修医。医局内では外様医師だ。総合診療科は領域が広い分、各領域の深いところに関しては専門医にはどうしても及ばない部分があるのが悩みだと以前言っていた。
「ほかの病院の循環器の先生に相談したい。でも口止めされているから、できないんだ」
「そんな隠蔽体質だからいけないんだ!」
 ジョージがまた大声をあげる。
「この状況で専門の先生に相談ってどうすればいいんだろう。名前も病院も匿名で相談できる場があれば良いんだけどね…。そんなの無理か」
 レイカがぽつりとつぶやいた。


 匿名で相談…。そういえば、まだ学生だった2年前に、当直実習先の病院で、当直中の先生も同じようなことを言っていた。その時は若い眼科の先生が全科当直をしていて、夜中に「胸がモヤモヤする」と言って歩いて救急外来を受診した高齢女性を診察した。心電図と血液検査をしたが、特に異常値はない。正常の心電図を見ながら、「これ、正常だよね? ね?」と聞いてくる眼科の先生。
「そうですね、正常だと思いま…、いや、僕はまだ学生だから分からないですって。循環器の先生に聞いてください」
 あやうく無責任なことを答えそうになる僕。しかし、その先生は本当に困っているようで、
「夜中の3時に正常な心電図で循環器の先生を起こすわけにはいかないよ。あー、でも誰かに見てもらいたい。『うん、異常所見ないよ』って言ってもらいたい。この時間でも全国を探せば何千人も起きている医師はいるはず。その人に聞く方法ってないのかなー。お互い匿名なら楽なのに」
「そうですね、患者さんの名前も病院名も匿名で相談できたら、不利益は誰も被らないですよね」

 結局このやり取りの後、循環器の先生を院内PHSで起こすことになった。眠そうな顔でやってきた循環器の先生は、サッと検査所見と患者さんを確認すると、「4時間以上、胸部症状が経過して、トロポニンは正常範囲で、心電図も異常所見なし。少なくとも心筋梗塞はないから、明日の循環器外来、受診してもらってー」
 そう言うと、右手で大げさに頭をボリボリかきながら仮眠室の方へと帰って行った。

「やっぱりな…この心電図正常だよな。でも心筋梗塞とか狭心症って、死に直結するから怖いしなぁ。あー、わざわざ循環器の先生を起こす必要なかったかな」
「先生、患者さんのためを思えば最善だったと思いますよ」
 ガックリ肩を落とす眼科の先生に、僕はこう声を掛けるしかなかった。

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著者プロフィール

尾崎晋平(ペンネーム)。循環器内科医。執筆活動以外にも、医療機器の開発や臨床研究、遠隔診療など、興味を持ったものにはなんでも挑戦。

連載の紹介

DDDDD~ディーゴ~
江戸大学病院で初期研修をスタートしたディーゴ、ジョージ、レイカの3人が、次々に事件に巻き込まれていく。先輩医師の助言やIT技術を駆使し、トリックを暴いていく医療ミステリー。

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