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未来の医療者とデザイナーに「共創の場」を

2019/01/24
波多野 裕斗(東京医科歯科大5年)

 はじめまして。未来のデザイナーと医療者をつなぐための学生コミュニティー「Colonb's」の代表をしている東京医科歯科大学医学科5年の波多野裕斗と申します。

 高齢化が進む日本の医療は今、大きな転換期を迎えているといわれています。予防医療やセルフケアなどの必要性が広く認知され、患者さんが自発的に健康的な行動を取る仕組みや仕掛けの必要性が増しています。

 このような時代の医療には、より人々の感性をターゲットとしたサービスやプロダクトが必要だと考えます。Colonb’sは、医療がこの時代に対応できるよう、美大生をはじめとする未来のデザイナーと、医療従事者の卵を学生のうちからつなげ、共創の機会を提供することで、2つの分野がより身近なものになることを目指しています。その活動として、美大生と医療系学生がともに学ぶワークショップや、プロジェクトチームを作って実際にヘルスケアの問題に取り組むといった活動を行っています。

 今回は、2018年12月15日、多摩美術大学サービスデザイン研究会と共催した「デザイン×医療」ワークショップの様子をご紹介します。

 本ワークショップは、ディー・エヌ・エー(以下DeNA)のご協力の下に開催されました。多摩美術大学、東海大学、東京医科歯科大学、東京大学、慶應義塾大学、北海道大学と、複数の大学から、美大生・医学生を中心に多様な学生が集まりました。

 ワークショップでは、まず「若者が実施できる生活習慣病の予防」をテーマとし、スマートフォンアプリの基となる模型(プロトタイプ)の作成をゴールとして、7時間という限られた時間の中で集中して課題に取り組みました。

 まず行うのは、「ペルソナ」の設定です。ペルソナとは、アプリの仮想ユーザーのこと。氏名や性別、性格、1日の過ごし方などを詳細に設定することでユーザー像をはっきりさせ、これから作成するアプリをどう設計するのかを考えやすくする役割を果たします。

 ペルソナを設定した後は、アプリの設計に入ります。各チームで解決すべき課題を決め、その課題をどう解決するか、作成するアプリが課題解消のためにどんな役割を果たすのかを考え、仮説を導き出します。

 仮説を導き出したら、アプリのプロトタイプを作ります。スマートフォンの画面に見立てた用紙に、設計したアプリの画面のスケッチを次々に描き起こします。次に、スケッチの写真をスマホで撮影し、「Prott」というプロトタイプ作成ツールで読み込むと、実際の画面遷移をシミュレートすることができます。

 プロトタイプができたら、チームごとに考えたアプリをプレゼンテーションしていきます。音を使って運動を楽しくするアプリ、自炊のハードルを下げて食生活を改善するアプリなど、個性溢れるアプリが完成しました。最後に、DeNA現役デザイナーの方々からフィードバックのコメントをいただき、大盛況のうちにワークショップは幕を閉じました。

 参加した千葉大学大学院(看護)修士1年の松嶋恭子さんは、「美術系学生と医療系学生がコラボレーションすることで、議論したり描いたりといった多様な形でのコミュニケーションで円滑に話し合いが進むことを学びました」と話してくれました。また、今回の一番の収穫は「妥協せず、徹底的にペルソナのニーズに寄り添う」ことの大切さだそう。松嶋さんのチームでは、1つのアイデアがプロトタイプとして形になりつつある段階になっても、班員全員が完全な納得感を持てなかったため、繰り返しペルソナのニーズやパーソナリティーに立ち返って議論を重ねたそうです。さらに、「何度も立ち返ることで、真に必要とされるアウトプットの創出につながる」と気づいたといいます。

 一方、美大生側の中野遥夏さん(多摩美術大学3年生)は、「デザインはただきれいなビジュアルを作ることを指すのではなく、伝えたい事をどんな形や仕組みにしたら相手により良いかたちで伝わるかを考え設計することだと思っています。今回のワークショップでは、普段デザインを勉強している美術系学生は日々鍛えてきた企画力や柔軟な発想、造形力といった自分たちの強みを生かし、医療系学生はそれぞれの専門分野の知識や強みを生かしていました。お互いが別の視点からアプローチすることで、とても良い化学反応が起きていたと感じました」とコメントを寄せてくれました。デザイナーの仕事の領域が拡大している今、今回のように他分野の学生と交流を持ち知識や考えを共有することは、美大生にとっても将来の働き方を考える上でとても意味のあることだと思います。

 多摩美術大学情報デザイン学科准教授の吉橋昭夫氏は、「デザインのワークショップを通じて一緒に何かをデザインする経験ができれば、それぞれの専門性が理解でき、単なる交流を越えて連携が生まれる」と考えたそうです。

 「当日、専門領域が違い価値観も異なるはずの医療とデザインそれぞれの学生が、初顔合わせのチームでディスカッションし、ストーリーボードを描き、アプリやサービスのプロトタイプを作っている様子には驚きました。DeNAは、学生向けに多くのワークショップを開催されており、課題とプロセスの検討や当日のデザイナーによるファシリテーションなど、多くのご協力をいただきました。チーム内で紛糾する場面がなかったのは、議論するだけでなく『つくる』というゴールがあったからでしょう。医療とデザインの協働の可能性を感じる1日となりました」(吉橋氏)。

 ワークショップでファシリテーションをご担当いただいたDeNAデザイン本部グループ・マネージャーであり、デザイナーの小原大貴氏は、「医学生と美大生のコラボは例えが乱暴かもしれませんが、いわば最高峰のCPUとGPUのコラボレーションだと感じました。実は、ワークショップを難易度の高い設定にしたのですが、2属性の学生が協同することで難なくこなし、アウトプットも普段美術系学生など1属性に行うワークショップよりも、専門的知見も加わった興味深いものが多かったです」と振り返ります。

さらに、「医療も広い意味で考えるとサービスの一種だと思います。サービスということはデザインの力で体験を改善したり、新たな価値を付与したりできる可能性があるということです。今回の経験が学生たちにとって未来の医療・関連サービス・ものづくりの一助になってほしいと思っています」とのコメントをいただきました。

 Colonb’sは、今後もデザインと医療がお互いにより身近なものになる未来の実現に向け活動を続けていきます。興味を持ってくださった方は、Colonb’sのウェブサイトなどを通してご連絡いただければ幸いです。

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連載の紹介

体験リポート
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